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プロジェクトを仕掛け、仕組みで売る

2013.10.18 Fri.


プロジェクトを仕掛け、仕組みで売る
~協働で強化する商品企画・販売力~



オリジナリティや商品力があっても、単一の商品や事業者では市場でなかなか生き残ることができないという地域物産の課題。この課題に、複数の業者が協働して発信力・販売力を強化する「仕掛け」で挑むのが、「やんばる畑人(ハルサー)プロジェクト」だ。チームビルディングの工夫や独自の販売戦略が奏功し、存在感を増しながら拡大を続けるプロジェクトの現場を取材した。

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上左写真 : プロジェクトの看板商品「やんばるスパイス」(15g入り735円)。応援店としてプロジェクトに参加する飲食店の店頭で入手できる。上右写真: カレー(1食入り630円)は県外での販路開拓を視野に入れる。地域や応援店のガイドブックをパッケージに同封し、メッセンジャーの役割を担わせた


 「やんばる畑人プロジェクト」では、地域の農家と飲食店、加工業者が協働し、商品企画や販売・PRを行っている。2010年4月の発足から今までに「やんばるスパイス」と「やんばるスパイスカレー」の2商品を開発。発足と同時に発売したスパイスの売れ行きは年間2000個程度、カレーは1年で7000食が売れた。スパイスの独占販売権を持ち、スパイスを使ったメニューを提供する応援店のネットワークも発足時の5店舗から26店舗に拡大。地元に根ざした取り組みが評価され、2012年には応募総数862件のフード・アクション・ニッポンアワード2012(農林水産省主催)で審査員特別賞を受賞した。また、県が出資する沖縄科学技術大学院大学(OIST)内食堂の運営主体に選ばれ、「YANBARU HARUSAA'S TABLE Kaito+」をオープンした。


利益が循環する
"応援店制度"の仕組み

 協働の土台となっているのは、共存共栄のために考え出されたプロジェクトの仕組み(図参照)。"応援店"として加盟する飲食店だけがスパイスを取り扱えるようにしたことで、利益の循環が起きている。応援店が増えるとスパイスの販路が拡がり、顧客接点が増えて知名度が上がる。スパイスやプロジェクトが注目を浴びるほど、応援店の集客効果が高まるほか、メニューを充実させる助けにもなる。ともすれば競合する応援店同士も、どう料理するかの創意を刺激し合うことで切磋琢磨し、地域全体の「食」の魅力向上にもつながる。点ではなく面で展開するユニークさが話題を呼び、マスコミに取り上げられるなどの成果も上げている。

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「やんばる畑人プロジェクト」相関図 ※クリックで拡大


発端は所得向上を目指す
農家のニーズ

 ことの発端は、農業生産法人クックソニア代表取締役の芳野幸雄さんが感じていた課題だった。芳野さんは、東京で有機農産物の小売・流通に携わった後沖縄で就農。「種を落とす前から小売り業者と直接価格交渉することで、農家の所得が向上する」という見立てのもと、「一人ひとりに声をかけて参加を促した」という7人の新規就農仲間とともに、生産者グループ「沖縄畑人くらぶ」を運営していた。一部の作物は希望の単価で取引できていたが、全体としては目標年収に届いていなかったという。「高値で売れる作物を"経済作物"と呼んでいますが、みんなで単一の経済作物ばかりをつくってむやみに生産量を増やすと、単価が下がり、所得は向上しません」と芳野さん。新たな経済作物を模索する中で、「以前から気になっていた」というパン店「Pain de Kaito」を訪ねたことがきっかけとなり、オーナーの河本雅一さん、地元の豚料理店「満味」のオーナー満名匠吾さんと出会った。

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農家として主に島オクラやうりずん豆などを栽培している芳野さん。代表を務めるクックソニアは、6次産業化の認定を受けている。目下、地元の学校給食への食材提供に取り組む

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やんばる島豚七輪焼き店「満味」オーナーの満名匠吾さん。「あぐーブランドだって、40年の積み重ねがあっての恩恵。『やんばるとは?』を深め、地元に眠る価値を掘り出していきたい」


農家のニーズと
飲食店の想いが結びつく

 満名さんの「やんばるにはおいしい豚肉や海産物、野菜、塩と砂糖がある。これに香辛料が加われば、オールやんばる産でおいしい食事が提供できる。ぜひ実現して、やんばるの豊かさを発信したい」との言葉が、芳野さんに新たな気付きをもたらした。「やんばるで穫れる胡椒や秋ウコン、島とうがらしで商品力の高いミックススパイスがつくれれば、経済作物になる、と可能性を感じました」。さっそく、満名さんが地元ネットワークを活かして食品加工業者の有限会社渡具知の代表取締役である渡具知豊さんを巻き込み、サンプルを製造。これを芳野さんの知り合いだったスパイスの専門家に送ったところ、「インド産とはまた違う独創性があって面白い」とのお墨付きを得た。タイミングよく公募が出ていた農林水産省「食を核とした地域活性化支援事業」への採択も追い風となり、半年ほどで「やんばるスパイス」が完成した。

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有限会社渡具知の渡具知豊さん。社長業が多忙な中参加する動機を「楽しいから」と話すが、「スパイスもそこそこ売れ、名前も知られてきてもう頓挫できない。本気ですよ」と真剣そのもの


"東京市場進出"から
"地域優先"へのシフト

 スパイス完成後、せっかく集まったチームが解散するのは惜しいと、やんばる畑人プロジェクトを発足。当初は東京市場を狙って開発が始まったやんばるスパイスだったが、ここで応援店限定商品へと方向転換した。「商品開発に参加した飲食店さんが、自分の子どものように感じてくれるようになった商品。東京の市場に出して農家と加工業者だけ儲けることに違和感を感じ始めていた。それに、地元で愛されてこそ本当の特産品。地元に定着させることで、飲食店に人を呼び込み、結果的に農家が潤うことを目指すほうが、息の長い成功につながると考えるようになりました」と芳野さん。
 加工食品のプロでもある渡具知さんも「応援してくれる飲食店が集まっている恵まれた状況を活かして、独自の販路構築戦略を仕掛けるべき。彼らにスパイスを使ったメニューを開発してもらえば、瓶詰めの単品が売れても売れなくても息の長い商品に育てられる」と応援店制度を推奨。こうして始まった仕組みが奏功し、これまでに応援店でオリジナルスパイスメニューの材料として使用されたスパイスの総消費量は約100キロと、瓶詰めの単品で売れた約90キロを上回る。
 飲食店を組織化することで安定的な販路を構築するという構想は、着々と現実化している。また、スパイスの売価は15グラム735円で、市販品に比べ約2~3倍高い。これは、生産・加工・販売の各事業者が無理なく事業を継続できることを最優先にした結果だ。応援店制度は、商品の適正価格を維持したまま最終消費者に届ける戦略でもある。
 「現在は、クックソニアが販売元であるスパイスとカレーだけですが、今後は別のメンバーが販売元になる新商品も出し、プロジェクトの仕組みを活用していきたい」と芳野さん。プロジェクトでは2015年までに、応援店を100店舗に増やすこと、現在58%のスパイスの県産率を100%にすることで、プロジェクト全体の所得向上を促進するという目標を掲げている。

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応援店「BLUE TRIP」オーナーの大石啓士さん。「農家さんと近距離で関わることで食材のことを勉強でき、店のレベルアップにつながっています」と、参加の意義を語ってくれた

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1日300~350人が利用する「YANBARU HARUSAA'S TABLE Kaito+」(上左写真)には野菜の直販コーナー(上右写真)を併設。石田店長が「お客様から直接意見をいただけて、改善したものをまた見てもらえる」と語る固定客との絆を活かし、開店1 年で売上を60%向上させた。学内の食堂ながら、OIST関係者以外の来店も増えているという


活動がいきいきと続く
チームビルディングの工夫

 プロジェクト発足から2年経った現在、月に一度の定例会議を軸とする、活発な協働体制ができ上がっている。プロジェクト運営の経験が豊富なメンバーを中心に、さまざまなチームビルディングの工夫を実施しているからだ。まず、定例会議を効果的な共創の場にするため、四役会で事前・事後会議を行っている。また、役割を分担してプロジェクトを効率的に進めるため、商品開発部・広報渉外部・会員交流部という3つの作業部会をおく。さらには、既存メンバー2名の推薦を新規加入の条件にするなど、協働を潤滑に継続するための工夫が運営の随所に埋め込まれている。

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プロジェクトの事務局機能を担うクックソニア事業統括部長の小泉伸弥さんが持っているのは、定例会議で発案された集客施策「SPICYなOKINAWA SUBA」スタンプラリーのチラシ。応援店によるメニュー開発も活発だ。

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上左写真:「BLUE TRIP」のやんばるスパイス焼きカレー 上右写真:「ぬちぐすい」のお品書き


「やんばるはおいしい」という
地域ブランドの確立へ

 プロジェクトの最終的なゴールは、「やんばるはおいしい」という地域ブランドを確立すること。全国的な知名度を高めることで、地域の食にかかわる事業者全体で豊かになることを目指す。直近では、新たに栽培を始めるスパイスの種子を調達するためのインド視察を予定。東京にも応援店を拡げるべく、現地での説明会も予定するなど、ゴールに向かって着実な歩みを進めている。


やんばる畑人プロジェクト事務局
(農業生産法人クックソニア内 担当:小泉)
☎0980-43-5895
http://www.haruser.jp/