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【56号特集】イユウヤーたちの新世紀 〜沖縄の魚ビジネス最前線〜

2018.12.25 Tue.


【56号特集】イユウヤーたちの新世紀
〜沖縄の魚ビジネス最前線〜



日本人の魚離れは加速の一途をたどり、海に囲まれた沖縄県においてもその傾向は顕著だ。そんな中、ビジネス資源として沖縄の魚の価値を再発見し、あるいは新たな価値を付加して県内・県外・海外に向け事業を展開する人たちの活躍が目立ってきた。今回は、特徴ある着眼点から事業を拡大しつつあるイユウヤー(魚を売る人)たちを紹介する。


【商品価値の再発見と販路の創出】
カツオなまり節の本来の価値を見直し
〝島のものを島が売る〟形をつくりたい
-友利かつお加工場 代表 友利真海さん-

伝統的な製法に改良を加えて
さらなるおいしさを追求

伊良部島でカツオのなまり節を製造しながら、工場併設の直売店では自社製品のほか伊良部島の特産品も販売している友利かつお加工場。なまり節はすぐに売り切れる人気商品だというが、代表の友利真海さんに、その人気の秘密を伺った。
「伊良部島では明治時代に始まったカツオ漁が今も盛んに行われています。1989年に祖父が父と創業した加工場を、私が1999年に継ぎ、20年目に入りました」
なまり節は、創業時からの主力商品。近海魚を長く保存し、おいしく楽しめる加工食品として、古くから島の人々に親しまれてきたものだが、最近では隣の宮古島や県外から買いに来る人も増えてきたそうだ。

「一番のこだわりは、伝統的な手火山(てびやま)式直火焙乾(ばいかん)を守っていることです。燻製が足りないと風味が物足りず、乾燥しすぎるとパサついてしまうのですが、私の代になってから試行錯誤を重ね、セイロを火元により近づけて短時間で焙乾するようにしたところ、格段においしくなったと評判をいただいています」。勢いよく燃える薪の炎で一気に焙(あぶ)った後、じっくり蒸らしていくため、外側は香ばしく、中はよりしっとり仕上がるようになったという。
「〝魚の伝道師〟として全国で活躍する上田勝彦さんが、私のなまり節を食べて『ここにしかないおいしさだ』とテレビで紹介してくれたのをきっかけに、わざわざ買いに来てくださる方や、県外からの問い合わせも増えています」と友利さん。
島の家庭には欠かせない食材だったなまり節も近年では需要が減り、なまり節を知らない若い世代も少なくないそうだ。そのため友利さんは「古くから愛され続ける食材の良さを広く知ってもらいたい」と、試食会を定期的に開催。なまり節の調理法として昔から親しまれるチャンプルーやカツオ味噌に加え、地元飲食店などの協力を得ながら現代風の食卓に合うサラダや一品料理のレシピも紹介している。その結果、子育て世代の若い女性からも「手軽に使えておいしく、無添加なのも安心。子どもも好きな味」と好評だという。

橋の開通、空港の開港...。
今こそ島の魚食文化を発信するチャンス

製造・卸ひとすじでやってきた友利さんに大きな転機をもたらしたのは、2015年の伊良部大橋の開通だった。
友利さんの加工場は、佐良浜の玄関口という好立地にある。ここに販売拠点を構えれば、なまり節など島の特産品を来島者にアピールできる。「宮古島から橋を渡って来る人に〝カツオの島・伊良部〟を知ってもらう絶好の機会だと思いました」
そう考えた友利さんは開通のタイミングに合わせ、加工場の隣に直売店をオープン。すると想像以上の評判となり、なまり節は棚に並べたそばから完売する勢いに。「その後、お客様の声に応えてつくった小サイズのなまり節や、島内の業者と開発したかつおフレークなどの加工品もよく売れています」と友利さんは確かな手応えを感じている。
伊良部島で食に関わる事業者仲間と『特産品売り込み隊』を結成し、島の魅力の発信にも余念がない友利さん。「橋の開通前は年間約万人だった宮古島への入域観光客数は、開通2年後には100万人近くに伸びました。2019年は下地島空港も開港し、さらに多くの人が伊良部島を訪れることになる。そんな今こそ、島の魚食文化を積極的に発信するべきだと思うんです」
島を訪れる人と今のお客様を大切にしながら、より地元密着型の加工場にしていきたいと語る友利さん。「今あるものを最大限に生かし、身の丈に合ったスケールで足元を固めておくことが、次の大きなステップにつながると信じています」と力強く言い切る。
「鹿児島県にはカツオの鮮魚や加工品などの製造加工・販売・宣伝を行う『枕崎かつお公社』があるんです。いずれ伊良部島にも、地域を挙げてカツオ産業を盛り上げる仕組みをつくりたい。外の人に頼らず、漁協などと連携して〝島のものを島が売る〟スタイルを築きたいですね」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ56号」電子ブックにてご確認ください

「日本一小さい加工場」と自称する工場。カマドで薪を燃やし、その上に釜茹でしたカツオを載せたセイロを置いて、燻製しながら乾燥させる伝統的な手火山式直火焙乾は手間暇がかかるため、一日の生産量は50〜60本が限界とのこと

直売店(左)では、なまり節を使った料理の試食や加工場見学などのイベントも開催。ソーメンタシヤーなど、なまり節を使ったレシピも紹介している(右)

直営店の売り場では島の事業者仲間の商品も取り扱う。ワンストップで島の特産品が手に入ると来島者にも喜ばれている

友利真海さん。カツオ漁に欠かせない餌の小魚は、「アギヤー漁」と呼ばれる伝統的な漁法で獲っているが、アギヤー漁をする人が高齢化などで減っていることに友利さんは危機感を募らせている。「カツオ漁の存続のためには、餌の養殖も視野に入れておく必要があります」と熱を込める

友利かつお加工場
宮古島市伊良部字池間添249-1 ☎0980-78-5778
http://tomorikatsuo.com/



【新商品の開発】
ありそうでなかった『島魚の干物』
地域産品を組み合わせて 価値を高める
-石川漁業協同組合 組合長 若津武徳さん-

〝うるま市ならでは〟の味を追求し
新鮮でおいしい近海魚の干物を開発

石川漁業協同組合が製造販売している『島魚(しまいゆ)の干物』。沖縄のカラフルな近海魚の干物が真空パックされた見た目のインパクトがある上に、調理もごく簡単。食べれば意外なほどジューシーでコクもあり、濃い旨みが味わえると大評判だ。商品の開発に当初から関わる石川漁業協同組合の組合長、若津武徳さんに、干物づくりが始まるまでの経緯を伺った。
「せっかく水揚げしても値がつかず、市場に出回らない不人気な魚に、何らかの付加価値をつけて販売したい。そうすることで漁業者の所得向上を図りたい、という考えから、2015年にうるま市の4つの漁協で対策を話し合ったのが始まりです」
獲っても売れない魚を売れるようにする—。難しいテーマに取り組むため、若津さんらはアドバイザーを招へい。山口県の萩漁港近隣で未活用魚をイタリア風オイル漬けにして大ヒットさせるなど、水産資源を活用した地域開発で多くの実績を有する中澤さかなさんがプロジェクトに加わった。
「干物にしよう、というのは中澤さんの発案です。沖縄で干物がつくられなかったのは、強すぎる日差しが干物には不向きとされてきたからですが、『天日干しではなく冷風乾燥機を使えば』と。また沖縄の近海魚は淡白で脂が少なく、水っぽいのが特徴ですが、中澤さんは『だからこそ干物にすれば旨みが凝縮され、歯ごたえのあるおいしい魚になる』と。その言葉に勇気づけられ、干物づくりに挑戦することにしました」
2016年には干物にする魚種や加工方法を話し合い、試作に着手。うるま市産なら
ではの味わいを追求するため「調味料も地元
産にこだわろう」となり、いずれもうるま市
の事業者であるぬちまーすの塩、神村酒造
の泡盛、泰石酒造の日本酒の酒粕を使って、試作と試食を繰り返した。

「初めて販売したのが、2016年12月の『うるま市産業まつり』でした。うるま市の市魚のマクブ(シロクラベラ)やイラブチャー(ブダイ)、タマン(ハマフエフキ)などの干物を用意しましたが、時間ほどで完売。予想以上の反響に驚きました。その後はお客様の声に応えながら、食べきりやすい半身、フライパンでも調理しやすい切り身、ひと口大にした数種類の干物を串に刺したバーベキュー用など、徐々にバリエーションを増やしていきました」
商品に改良を加えつつ、認知度を上げるためイベントにも積極的に参加。2018年1月の『おきなわ花と食のフェスティバル』では、県産食材を使った加工品のナンバーワンを決める『2018おきなわ島ふ〜どグランプリ』で優秀賞を受賞した。そのおいしさを知る人は着々と増加中だ。

漁協同士の連携を深めて魚を確保し
量産化の体制を整え、黒字化を目指す

『島魚の干物』は現在、石川漁協の直売店と、2018年11月にオープンしたうるま市の農水産物振興戦略拠点施設『うるマルシェ』で販売している。「うるマルシェではオープン初日に完売となり、しばらく欠品状態になりました。売り場の目玉商品のひとつとして需要に応えられるよう、今後は干物向けの魚をどう確保し、量産化を進めるかが新たな課題です」と若津さん。「というのも近年、近海の魚の総数が減っていて、どの漁港も水揚げが年々減少しているんです。水揚げが多い時にたくさん加工し、商品をストックできる体制を早急に整えていきたい。またエーグヮー(アイゴ)など比較的安価な魚種も付加価値の高い干物にして、売価を上げたいですね。ただ、現在加工と販売を担っているのが女性スタッフひとりなので、1日50〜80パックの製造が限界。無理したら続かないので、黒字化できるまで結果を急がず、じっくりやっていくつもりです」
県民の魚離れを食い止めるため、「干物でつくるバター焼きや煮付けなどの食べ方を提案したい」とも話す若津さん。「魚ビジネスの成功には、魚の消費者を増やすことが何をおいても不可欠ですからね」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ56号」電子ブックにてご確認ください

『島魚の干物』は1パック500〜1800円で販売(直売店価格・魚種やサイズにより価格は異なる)。右は「トカジャーの南フランス風サラダ」。干物の新しい食べ方も提案している。うるま市の「ふるさと納税」の返礼品にも採用されているほか、通販サイトでの販売も行われているとのこと

『島魚の干物』を製造・販売している石川漁協の直売店

若津武徳さん。石川漁協の組合員は現在19名で、平均年齢は40代半ば。20代で潜水漁をする人など、20〜40代の組合員も近年増えていて、漁獲高の向上に貢献しているそうだ。また「育てる漁業」への取り組みも始めているとのこと

石川漁業協同組合
うるま市石川石崎2-1
☎098-964-3187



【新たな販路の開拓】
沖縄の近海魚が評価されるアジアへ
多品種小ロットでの鮮魚輸出に挑む
-株式会社萌す 代表取締役CEO 後藤大輔さん-

誰もやらなかったアジアへの鮮魚輸出で
設立から2年で売上を5倍に伸ばす

「地域商社」という言葉をご存知だろうか。地域商社とは、地域に存在する魅力的な農産品や観光資源などのうち、まだ広く一般に知られていない新たな商品を見つけ出し、国内外に販路を開拓する企業などのこと。2015年設立の株式会社萌す(きざす)は、沖縄の近海魚を新鮮なままシンガポールや台湾、タイ、香港などに輸出し、成長中の地域商社だ。設立からわずか2年で売上が5倍になったという同社の代表取締役CEO、後藤大輔さんに、鮮魚輸出を手がけるまでの経緯を伺った。
「地域おこしをテーマにした観光業を営んでいた時から、心がけていたのは〝地域を売ること〟でした。沖縄の魅力を発信する際、美しい海は大きなアピールポイントでしたが、そこにいる魚は観るものであって、食べるものではありませんでした。
観光客を漁村に案内する機会も多く、漁業関係者らと接するうちに、魚の需要減による漁業の衰退や、後継者不足に悩まされている地域が少なくないことを知りました。その状況を打開する方策を考えていた時、沖縄の魚の輸入を希望しているシンガポール人がいると聞いたんです。これはと思い、沖縄の近海魚を商材として活用する道をリサーチしました」
その結果、多くの日本人には脂が乗っていないと思われがちな沖縄の魚は、沖縄以南の国の人にとっては脂が乗ったおいしい魚だと認識されていることが判明。「視点を南に向ければニーズはあり、採算性も高い」と判断した後藤さんは新会社を設立し、鮮魚の輸出に乗り出したのだ。

人脈や仕組みづくりに奔走し
沖縄の魚をより多くのユーザーへ

現在、週平均200キロほどの鮮魚を輸出しているという同社の取引先のほとんどは、海外にあるローカルの飲食店だ。しかも、直接取引にこだわっているという。
「海外進出を目論む企業は、まず日系企業にコンタクトをとろうとしますが、私は別のルートで販路を開拓しました」と後藤さん。「シンガポールの飲食店や小売店などへ一軒ずつ営業して回るうちに、学閥があることに気づいたんです。そこで、シンガポール大学に狙いを定めて人脈づくりをしたのですが、結果的には多くの優秀な官僚らを輩出している同大学の人脈をたどり、取引先を広げることに成功しました」
その一方で、鮮魚輸出ビジネスの大きなネックだったのが、貿易関連の書類決裁にかかる時間の長さ。これをいかに短縮させるかも課題だった。「鮮魚の輸出を始めた当初は、書類決裁に2日もかかっていました。鮮度が命なのにこれでは困ると、経済産業省や内閣府、商工会議所などの関係者に直訴したところ、2日から3時間へと大幅に短縮されたんです。それまで生鮮品の輸出モデルがなかったせいだと思いますが、このことで効率的な輸出が可能となり、その後の取引量の増加につながりました」
また、鮮魚を扱うには品質を見極める〝目利き〟が欠かせないが、魚業界での経験がまだ浅い後藤さんは「経験による目利きに代わる、別の手法を採用しています。これは、輸送中の温度と、鮮度判定に用いる『K値』を高砂熱学工業株式会社さんと共同で細かくデータ化し、詳細な分析を行うという手法です。これにより、鮮度を保つのに最適な温度管理が行える上、『届いた鮮魚は何日後まで生食可能で、その後は加熱使用を』といった料理の提案までできるようになりました」という。
独自の発想と手法で道を切り拓きながら、誰もやらなかった分野に果敢にチャレンジし、成果を上げている同社。その取引先は現在、東南アジアから欧米へと拡大しつつあるそうだ。現在の目標のひとつは、「県内の漁業関係者と連携し、沖縄の魚ビジネスをさらに成長させること」だという。後藤さんは声を大にして、次のように訴える。「『市場に出しても値がつきにくい』と諦めている魚も、私が必ず最適の売り方や販売先を見つけます。ぜひ私に魚を売ってください。そして漁業に関わるみんなで、より大きな成長を目指しましょう」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ56号」電子ブックにてご確認ください

海外のスーパーに、沖縄の近海魚が新鮮な状態で並べられる。輸出先によって好みは異なるものの、メカジキやクルキンマチ、アカマチ、タマン、イカ、夜光貝などが人気だという

中華のオーナーシェフとも繋がりができ、沖縄の鮮魚を使った中華風のメニューも考案された。蒸したミーバイにあんをかけたメニューが好まれるそうだ

培った人脈で魚を納入することになった航空機メーカーの社員食堂

後藤大輔さん。萌すの代表としての顔に加え、岩手県産業創造アドバイザーやJR東日本グループの海外事業アドバイザー、キリンビールのブランドアンバサダーなど多くの肩書も持ち、沖縄を拠点に全国そして海外でもエネルギッシュに日々奔走している

株式会社萌す
糸満市西崎2-6-3 コーポなかそね1階
☎098-856-7483

 

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