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【54号特集】KARATEで挑む沖縄の産業振興 〜空手家を支えるウチナーンチュたち〜

2018.07.31 Tue.


【54号特集】KARATEで挑む沖縄の産業振興
〜空手家を支えるウチナーンチュたち〜



遡ること数世紀前に沖縄で産声を上げた空手。いまや世界の空手人口は1億人超とも言われ、昨今ではその源流を求めて全世界から〝空手発祥の地・沖縄〟を訪れる愛好家も急増している。さらに空手が2020年東京オリンピックの正式競技に決定し、追い風が吹くこの好機を県内事業者や関係者がどのように捉え、活かそうとしているかをレポートする。



空手家を支え続けた50年の成果が
世界のトップブランドとして結実
-株式会社守礼堂-

国内外の空手家から高く評価されている「SHUREIDO」ブランドの空手着をはじめ、各種空手用品の製造・販売を行う守礼堂。社長の中曽根健士さんに、同社のこれまでの道のりを伺った。
「先代社長である父が1968年に、空手用品を専門に扱う空手家のための店を開いた
のが当社の始まりです。当時は空手着が確立
しておらず、柔道着などで代用されることが
多かったそうです」
現在では泊本店、東京支社に加え大阪と鹿児島にも販売拠点を展開。国内外からの注文に応じるネット通販も行う。「初心者、師範級、世界トップクラスの競技者など、それぞれに最適な空手着を取り揃えています。特に空手の『形(型)』では、激しく動いても型崩れせず、美しく見せる空手着が求められます。生地の品質が重要なのですが、当社では先代の頃から信頼を寄せている生地メーカーさんと、生地の開発から取り組んでいます」
縫製にも独自の工夫が。180度開脚しても足が美しく見えるズボンや、汗をかいても背中に張りつかず動きやすい上着では特許も取得した。愛用者の声を聞き取り、また空手着の縫製に長年携わる自社工場スタッフの意見も取り入れながら、製品の開発や改良を行っている。
「空手指導者の方々との関係づくりが何より大切」と語る中曽根さん。「父のやり方を踏襲し、毎日コツコツと空手道場を回って先生方のお話を伺ったり、試合会場にもこまめに足を運びます。そうした小さな積み重ねでここまできたという感じです。今は空手が初めて正式競技として採用された2020年東京オリンピックに向けて、各国の代表選手への支援にも積極的に取り組んでいます。その一方で裾野も広がっているので、道場や学校の先生方との関係づくりにも今まで以上に力を入れていきたいと思います」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ54号」電子ブックにてご確認ください

多くの空手家の要望を聞き、改良を加えている守礼堂の空手着。突きや蹴りの際の小気味良い「シュッ」という音は、擦れた時に音が出る生地を研究・開発した成果だ。空手への深い愛情があればこその地道な努力の蓄積が、世界のトップブランドを築き上げたといえる

2018年8月開催の「第1回沖縄空手国際大会」で来沖する選手や関係者のお土産用途も視野に入れたTシャツやタオル、琉球ガラスのグラスなども企画販売している

株式会社守礼堂
那覇市泊1-1-6 ☎098-861-5621
http://shureido-karate.com/



「空手発祥の地 沖縄」を広め
空手の継承と育成に活かしたい
-株式会社空手堂-

空手の演武でおなじみの「瓦割り」をモチーフにしたユニークなお菓子「沖縄瓦割せんべい」が2018年夏、発売された。空手の形(型)の絵柄や、「空手発祥の地沖縄」の文字が入ったせんべいは、そのまま食べても、何枚か重ねて空手家さながらに手刀で割って食べても楽しい。販売元の株式会社空手堂は、沖縄空手道剛柔流「明武舘八木道場」の開祖を祖父に持つ八木一平さんが興した新会社だ。
道場経営者でもある八木さんが新会社の経営に乗り出したのには理由がある。「県外や海外へ指導や遠征などに行くたびに、空手にまつわる手頃な手土産がないのを残念に思っていました。いつか誰かがつくってくれることを期待していましたが、手頃なお菓子類などが出てこなかったので、やらずに後悔するよりは自分がやろう、と。『空手発祥の地沖縄』を発信する商品を通して、沖縄の空手の継承と育成の助けになるような会社をやろう、と決意しました」

第一号商品の「沖縄瓦割せんべい」を皮切りに、ハブ酒とハーブをブレンドしたお酒や琉球ガラスの器、空手帯を使ったキーホルダーなども近日発売予定だと話す八木さん。「他にも〝黒帯〟をイメージした黒糖黒蜜や、瓦割せんべいと同様に割って楽しく食べられる黒糖加工品、沖縄空手かるたなども企画中です」
これまで沖縄に空手関連土産を扱う事業者がいなかった理由について、八木さんは「空手をビジネスに取り入れようとする時、誰に何を確認して良いかわからない、というのも原因のひとつかもしれません」と語る。「僕自身も手探りですが、沖縄空手土産品を増やしていきたいので、これからはぜひ皆さまのお力をお借りしたいです。『空手発祥の地沖縄』をもっと発信できるよう、県内の事業者さんと組んで、さまざまな商品開発に挑戦したいと願っています」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ54号」電子ブックにてご確認ください

「沖縄瓦割せんべい」は6枚入り500円、12枚入り900円、18枚入り1200円(いずれも希望小売価格・税別)。若狭の自社事務所と空手会館の売店、守礼堂で販売中だ。「遠征時のお土産用に、各道場や流会派のマークなどのシールを貼るサービスも検討中です。県内の道場運営者の先生方には“道場割引”なども検討し実現させたい」とのこと

株式会社空手堂
那覇市若狭3-2-27-2F ☎080-6490-2297
http://karatedoo.com



「空手の殿堂」沖縄空手会館で
多言語での受け入れ・発信を担う
-沖縄空手案内センター-

2017年3月に開館した「沖縄空手会館」の一角で、同年4月から業務を開始したのが「沖縄空手案内センター」(以下、「案内センター」)だ。海外・県外からの空手愛好家の来沖件数が増加の一途をたどる中、県内道場での稽古を希望する人へのマッチング業務と、多言語での情報発信業務を担う。案内センター業務を受託する沖縄伝統空手道振興会の理事長、喜友名朝孝さんに話を伺った。
「開設から2018年3月末までの11ヵ月間で、24カ国から130件の依頼を受け、354人の空手愛好家と、60人の県内道場主・指導者とのマッチングを実施しました。当センターの利用者は沖縄の空手組織と連携のない人が主なので、実際にはさらに多くの空手愛好家が来沖していると推定されます。当センターでは利用者の流派に応じて適切なマッチングを行えるよう、各道場や指導者との連絡・連携を密に行っています」。マッチングを受けた愛好家たちの地域別比率などについては、図を参照いただきたい。
空手のルーツを求めて沖縄を訪れる愛好家は、今後さらに増える傾向にある。彼らは道場での稽古はもちろん、空手に関する旧跡めぐりや、空手関連用品・お土産のショッピング、食事や宿泊なども楽しむ。「たとえばお土産のちんすこうやかりゆしウェア、やちむんなどに空手のモチーフが入っていれば喜ばれますし、飲食店のメニューでも『空手そば』など、空手にちなんだものがあれば喜ばれるでしょう。彼らが『あぁ、空手のルーツに来たんだな』と思えるような品揃えが、街中にもっと充実していけばいいなと思います。沖縄の文化としての空手の価値は、産業面でも活用できるものだと思いますが、県内事業者の方にはその価値が案外知られていないように思うのです。正しく理解し、積極的に活用していただけたらと思います」


※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ54号」電子ブックにてご確認ください

2017年4月の案内センター開設から2018年3月までの受け入れマッチング詳細。案内センターでは多言語での受け入れ対応・案内にも力を入れており、センター所長で日英バイリンガルの上原邦男さんをはじめ、フランス出身で4ヵ国語が堪能なミゲール・ダルーズさんらが対応している

沖縄空手案内センター
豊見城市豊見城854-1(沖縄空手会館内) ☎098-851-1088
http://okic.okinawa/



「沖縄空手振興ビジョン」に見る
県産業界の役割と可能性の広がり

最後に、2018年3月に沖縄県が策定した「沖縄空手振興ビジョン」(以下「空手振興ビジョン」)について触れておこう。
空手への注目度と空手人口の増大が、2020年東京オリンピックを契機に、今後さらに加速することは間違いないだろう。そのため、沖縄を発祥の地とする空手の保存・継承・発展には、今まで以上のスピード感と連携をもって取り組む必要がある。そこで県や空手関係団体、経済界等の様々な分野が一体となって、戦略的に取り組んでいこうとする中、目指すべき将来像として策定・共有されたのが、空手振興ビジョンだ(下図参照)。
基本理念と目指すべき将来像として定められた3つのキーワード(「保存・継承」「普及・啓発」「振興・発展」)のうち、ここでは「振興・発展」にフォーカスする。要約すると、空手家の経済的自立が実現し、また空手を目的とした交流人口の拡大が県経済成長の新たなエンジンとなり、空手界と産業界が連携しながら振興・発展に取り組んでいる、という将来像が描かれている。さらに具体的には、空手に関連する観光商品(旅行ツアーや体験プログラム等)の企画・開発、ライセンスビジネス(財産の整理・企画、各種商標の取得・管理・運営、情報受発信体制)の確立と活用、クラウドファンディングによる空手関連事業の資金調達、などが挙げられている。
いずれにしても肝要なのは、「保存・継承」「普及・啓発」とのバランスを保ちながら、振興・発展への道筋を描いていくことだ。県空手振興課の山川哲男課長は、「空手に関するビジネスアイディアの相談にも、空手振興課で応じます」と語る。「億3000万人ともいわれる世界の空手愛好家が、空手の源流である沖縄に注目している現状を、県内事業者にもチャンスとして捉えていただきたいですね」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ54号」電子ブックにてご確認ください

空手の形(型)の突きと蹴りをイメージした筆書きのモチーフに、翁長県知事の手に よる朱書きを組み合わせた「沖縄空手」のロゴマーク。山川課長は「沖縄空手を包括 するシンボルとしてぜひ定着させたい」と語る

「沖縄空手振興ビジョン」基本理念と目指すべき将来像(図)※「沖縄空手振興ビジョン」についてさらに詳しくはウェブページを参照。 http://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/karate/vision.html



TOPICS
泡盛、飲食店、アパレル、絵本などなど...
空手に関する県内事業者の取り組みいろいろ

※TOPICS内の画像は「沖縄ベンチャースタジオ54号」電子ブックにてご確認ください

本文で紹介した「守礼堂」「空手堂」のほかにも、県内ではさまざまな事業者がそれぞれのアイディアとリソースを活かしたビジネスに取り組んでいる。
株式会社久米島の久米仙では2017年5月に「琉球泡盛『空手』」を発表。ラベル中央には力強さと技のキレを表現した「空手」の文字を置き、周囲に黒帯や武具をあしらって空手の世界観を表現している。売上の一部が沖縄伝統空手道振興会に寄付されるため、美味しい泡盛を楽しめる上に空手の振興にも寄与できる嬉しい商品だ。
https://www.k-kumesen.co.jp/topics/1496281357/
那覇市安里で一風変わった「DOJOBar」を経営するのは株式会社チャレンジ沖縄。代表のジェームス・パンキュビッチさんはイギリス出身の空手家で、空手好きが高じて沖縄に移り住み、世界から沖縄を訪れる空手家が集えるバーを開いた。さらに、空手愛好家のためのTシャツや小物類などオリジナル商品を県内メーカーとともに開発し、店舗とネット通販で販売している。
https://shop.spreadshirt.com/dojookinawa/
空手をモチーフにした沖縄発の絵本も生まれている。読谷村の絵本スタジオアコークローが発行した「カラテマン~入門編」は、空手家の八木明人さん(「空手堂」八木一平さんの従兄弟)の監修を受け、県内クリエイターの文と絵で構成された日英バイリンガルの絵本。コミカルなタッチのイラストで楽しく読める上、「どうして修行をするのか? 」「あいさつ、野菜を食べる、お掃除をすることの意味」「本物の強さとは何か?」といった学びも得られる内容になっている。
https://www.akokuro.com/カラテマン/


INFORMATION
「第1回沖縄空手国際大会」
沖縄空手会館と沖縄県立武道館にて
2018年8月1日~8日に開催!

〝空手発祥の地沖縄〟を舞台に、伝統空手や古武道を流派や年代別に分かれて競い合い、また学び合う「第1回沖縄空手国際大会」が8月、開催される。沖縄空手の国際大会としては1995年の「沖縄空手・古武道世界大会プレ大会」から数えて5回目となり、2009年の「沖縄伝統空手道世界大会」以来9年ぶり。予備日を含め8日間の日程で競技大会と沖縄空手セミナーが開かれ、50の国と地域から総計1700名の空手家が一堂に会する予定だ。競技大会は首里・泊手系の部、那覇手系の部、上地流系の部、古武道の部(棒・サイ)の計5部門(順不同)で競われ、参加予定選手数は1200名。沖縄空手セミナーは2日間で全40プログラムが行われる予定で、参加予定者数は延べ2300名。いずれも過去大会を大きく上回る規模での開催となる。空手会館・県立武道館とも、8/1(水)の開会式から8/7(火)の閉会セレモニーまでの全日程を自由に観覧
できる。特に8/4・5の本大会は予選を勝ち抜いた精鋭の選手たちの競技を生で観られるチャンスなので、熱気溢れる会場にぜひ足を運んでみてほしい。
大会ウェブサイト https://okinawa-karate.okinawa/