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【53号特集】Why Okinawa? 沖縄でビジネスに挑む外国人起業家たち

2018.03.23 Fri.


【53号特集】Why Okinawa?
沖縄でビジネスに挑む外国人起業家たち



世界各国から沖縄を訪れ、自ら事業を立ち上げる外国人起業家の躍進が近年、ますます加速している。さまざまな形で独特の個性と存在感を放つ彼らはなぜ、沖縄を選んでやってきたのか? そして、どのような理念を掲げて沖縄でのビジネスに取り組んでいるのか? 故郷を遠く離れた地で起業に至るまでの歩みや、沖縄への想いを聞いた。



【From England(イギリス)】
ザ・チーズガイ
ジョン・デイビスさん

引退後、のんびり過ごす予定の沖縄で
故郷の味・チーズづくりに目覚めた

南城市内の牧場内に構えた工房で県産生乳を使い、また県産の素材を積極的に組み合わせながらチーズを手作りしているのが、イギリス・キングスリプトン出身のジョン・デイビスさんだ。1976年に来日し、東京や北海道で英会話教師として勤務。札幌で妻・貞子さんと出会い、結婚した。そして貞子さんの退職を機に、「暖かいところで暮らしたい」とふたりで来沖したのが2005年。ジョンさん59歳の時だった。
のんびり暮らすつもりだったジョンさんが、なぜチーズづくりを始めることになったのか。「私にとってチーズは、一昔前の日本人にとっての味噌と同じような存在です。イギリスではナチュラルチーズは生活に欠かせないもので、家で手作りもしますし、それぞれの家庭に母親の味があります。でも沖縄に来た頃、ナチュラルチーズはほとんど売られていませんでした。それなら自分でつくってみよう、と思ったのが始まりです」

県産チーズのなかった沖縄に
新しいおいしさを提供し続けたい

2012年、自宅のキッチンでチーズづくりをスタート。好奇心旺盛で研究熱心なジョンさんは、さまざまな沖縄の食材をチーズに組み合わせ、オリジナルのレシピを次々に開発した。「友人たちに試食してもらったところ、『これなら売れる』との声が多かったので、本格的にチーズ製造に取り組んでみよう、と思うようになりました」
しかしそもそも、沖縄のような亜熱帯気候でチーズづくりはうまくいくものなのか。素朴な疑問にジョンさんはこう答えてくれた。「質のいい牛乳を沖縄県内で探していた時、南城市の酪農家・親泊さんと出会いました。おいしい牛乳のために尽力する親泊さんとは、すごくフィーリングが合いました。発酵したエサを与えられ、暖かいところで育った牛は、よい乳を出してくれるんです。そうした新鮮で質のいい原料がすぐ手に入りますし、温暖な気候はチーズづくりに欠かせない発酵や菌の働きを活発にしてくれます。だから沖縄では、すごくおいしいチーズがつくれるんですよ」
2013年には牧場の敷地内にチーズ工房を構え、大里の店頭での販売も開始。すると「県産素材を使ってイギリス人がつくった手作りチーズ」としてテレビや新聞などにも紹介され、人々の関心を集めるように。今ではおいしいチーズの噂を聞きつけ、県外からもリピーターが通うほどだ。「今後は、本島中部への出店をはじめ県外・海外へも販路を拡大したいですね。また商品もチーズだけでなく、ヨーグルトやバターなど幅広く展開したい。私のチーズが、沖縄の新たな特産品として拡がっていけば嬉しいです」とジョンさんの夢は膨らむ一方だ。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ53号」電子ブックにてご確認ください

ザ・チーズガイのチーズは、南城市大里の自社店舗(営業時間13時〜18時)の他、那覇市のデパートリウボウ、天久りうぼうなど一部スーパー、オンラインショップで購入可能。また少数ながらも台湾や香港のスーパー、ワインショップなどへも販路を広げているという。1グラム2円〜12円

これまで開発したチーズは50種類を超え、現在はその中から35種類ほどを製造しているという。チーズに添えられた可愛いカードや店頭のPOPなども、すべてジョンさんが自らデザインやコピーライティングを担当しているのだそう

ザ・チーズガイ
南城市大里仲間1155 JAアトール内 ☎090-2051-5188
http://thecheeseguyinokinawa.com/ja/



【From China(中国)】
宏信(こうしん)株式会社
唐 宏英(タン・ホンイン)さん

祖国の激動期に、美しい海に癒された
沖縄は第二の故郷。ビジネスで恩返しを

県産の食品や健康食品を厳選し、中国をはじめ香港、台湾、シンガポールに輸出販売している宏信(こうしん)株式会社。代表を務める唐宏英(タン・ホンイン)さんは、文化大革命のさなかに生まれ、大学時代には天安門事件が勃発。祖国中国の激動期を肌で経験してきた人だ。
「中国で大学を卒業後、チベットでホテルに勤めていました。当時は現地の環境が思わしくなく、日本への留学を検討していた時、沖縄の大学のパンフレットに青い海の写真を見つけて。引き込まれるように沖縄への留学を決めました。1992年のことです」
中国内陸部の重慶の出身で、それまで海を見たことがなかった唐さん。沖縄で8年間、日本語や経済学、歴史などを学んだ日々は「充実した時間でした」と振り返る。「何よ
り沖縄の方々がとても優しくて、初めての海外生活だったのに苦労した記憶がないですね」
留学を終え、中国に戻った唐さんは大学教師の仕事を獲得。「周囲からは『もう安泰だね』と言われましたが、心の中では沖縄への想いが募る一方でした」。お世話になった沖縄に恩返しをしたい。そんな想いを胸に、再び沖縄に来ることを決意した唐さん。その背中を押したのは、父親の教えだったという。
「戦争を経験した父はよく『貿易の流れが止まると戦争が始まる』と話していました。『商品を通じてお互いの国の文化や食生活を伝え、交流を深める貿易という仕事は、国と国の関係をつなぐため、ひいては世界平和のためにも大切なことだ』という父の考えに、大きな影響を受けました。そして、これこそが私のやるべきことだと強く感じたんです」

中華圏と沖縄・日本をつなぐ
架け橋として貿易ビジネスに注力

二度目の来沖後は県内企業で薬品や健康食品の開発知識を学んだ後、2015年に独立し、会社を設立。「最初に取り組んだのは県産黒糖の輸出でしたが、当初は全く相手にされませんでした」。唐さんはサンプル片手に台湾・中国へ足繁く通い、1年がかりで質の高さを熱心にアピール。その甲斐あって2年目からは安定した輸出量を維持しているという。2016年からは渡嘉敷島産の桑の葉を使った青汁の輸出、2017年からは泡盛の輸出にも乗り出した。
輸出入の手続き作業にとどまらず、輸出先の販売支援、つまり店頭で消費者の手に渡るまでをサポートするというのが同社のスタンスだ。「中国人の食文化と商習慣を熟知している私ならではの、販売のノウハウがあると自負しています」と唐さん。「現地の消費者に受け入れられる製品づくりに賛同してくれる県内企業と連携し、それぞれの得意分野を活かしながら、販路拡大に向けて積極的に活動していけたらと思っています」
黒糖、青汁、泡盛。ひとつのテーマに1年間、時間をかけてじっくり市場を育てていくのが唐さんのやり方だ。「今年は泡盛の魅力を中華圏の人たちにもっともっと知らせていけるよう、頑張ります」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ53号」電子ブックにてご確認ください

中国での展示会で黒糖を紹介した時の様子

いま輸出に力を入れている泡盛については「『おしゃれな健康酒』として、若者、特に女性を中心にアプローチして、手応えを感じていますよ」と笑顔を見せる

台湾展示会でもろみ酢を紹介する様子(上)と、中国高級スーパーで販売している県産黒糖と青汁(下)。黒糖・青汁・泡盛をはじめとして、一般食品・健康食品・コスメなどまで、多様な県産品を輸出している同社。最近では中国進出を考える県内企業からの商品開発に関する相談も増えているそうだ

宏信株式会社
那覇市小禄1831-1 沖縄産業支援センター317 ☎098-996-4991
http://www.honsen.biz



【From Korea(韓国)】
株式会社あかゆら
姜 斗連(カン・ドゥリョン)さん

結婚で繋がった沖縄との縁。
地元の人と一緒に商売を通して成長

沖縄の島豆腐を用いた「かんさんの島どうふチップス」や、おからを使って堅めに仕上げた「ビスコッティ」など、県産食材を無添加で加工したお菓子の製造販売を手がける株式会社あかゆら。代表の姜斗連(カン・ドゥリョン)さんは韓国の釜山出身で、留学先のフィリピンの大学で石垣島出身の夫と出会い、結婚を機に来沖。しかし「当時、沖縄のことは何も知らなかった」という。
那覇市の専門学校に通い、日本語やパソコン、簿記などを学んでいった姜さん。「暮らしてみると沖縄は人の心がとても温かく、気候も温暖で、とても住みやすいとわかりました」。県内の観光地などで韓国人観光客の案内の仕事を経験した後、韓国の貿易会社に入社。沖縄支店長として勤務したが、ここで商売の面白さに目覚め、起業を決断。もともと自立心が強く、リーダーシップ旺盛だった姜さんは、起業に全く迷いはなかったそうだ。

沖縄の健康食材・島豆腐を
安心・安全なお菓子として提供

現在の主力商品である「島どうふチップス」はどのようにして誕生したのか。「市場をリサーチした結果、沖縄の食卓に欠かせない島豆腐を使ってお菓子を商品化しようと考えました。県産食材を使うことと、無添加でつくることにこだわったんですが、当時は製造のノウハウや機械の導入などを教われる人脈がなく、大きな壁を感じていました」。姜さんは持ち前のバイタリティで、手探りながらも積極的に外に出て行き、自ら人脈を構築。試行錯誤しながら機械の設計、レシピの作成などを独力で推し進めてきたという。
無事商品化・発売にこぎつけた「島とうふチップス」は評判も上々だったが、「もっと売上を伸ばすには賞を取らなければ」と考えるようになった姜さん。この商品の特性に合った応募可能な各賞をリサーチするとともに、積極的にエントリーし、2014年には宜野湾市特産品の認定を取得。同年度の宜野湾市商工会長賞も受賞した。その効果もあって販路がじわじわと拡大し、現在は試食販売などで商品の定着を図っているそうだ。
姜さんはいう。「沖縄は暖かくて暮らしやすいだけでなく、人情もあって大好きな場所。県産食材を使ったお菓子を県内だけでなく県外にも販売し、沖縄に貢献していけたらと思っています。工場では地元の人を採用し、お互いに成長できるような職場環境を目指しています。また、沖縄の食材を活用した新しいレシピも日々、考案中です」。いずれは香港や台湾、シンガポールへも進出する計画があるというが、「沖縄県産品には、高品質の『日本ブランド』に加えて『南国イメージの沖縄』という付加価値もあるので、それを生かした商品開発にも力を入れていきたいですね」と展望を語ってくれた。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ53号」電子ブックにてご確認ください

「かんさんの島どうふチップス」(写真奥)。地元宜野湾市での受賞に加え、沖縄県推奨優良県産品優秀アイデア賞も受賞している。黒ゴマ・ピリ辛・チーズ胡椒・アーサ塩の4種あり、お菓子としてだけでなく、味噌汁やスープに入れてもおいしいそうだ。ティータイムのスイーツとして新たに開発したという「ダブルビスコッティ」(写真手前)にもおからを使用。おいしくて体によいお菓子として認知されることを目指している

「沖縄で貿易の仕事に携わったことがきっかけで、商売の面白さに目覚めました」と起業のきっかけを振り返る姜さん。写真は2014年の宜野湾市商工会長賞受賞の賞状(上写真)と宜野湾市特産推奨製品の認定証(左写真)

株式会社あかゆら
宜野湾市大謝名2-16-8 ☎098-898-6708



【From United States(アメリカ)】
株式会社アリシス沖縄
パメラ・アンさん

愛するギリシャの『リアルフード』を
沖縄の人に、そしていつか母国の人に

読谷村の海を見晴らす高台にあるギリシャ料理レストラン「リトルグリークキッチン」。同店を運営する株式会社アリシス沖縄の代表、パメラ・アンさんは、アメリカから来日した当初は静岡県でネイリストとして仕事をしていたという。ネイルサロン・スクールを営みながら15年ほど静岡で暮らし、その後移住した先がギリシャだった。「ネイルの技術を教えてくれたのがギリシャ人のネイリストだったんです。彼女が教えてくれたギリシャの料理、文化、すべてに魅せられ、ギリシャが大好きになりました。『心はギリシャ人』と思っています(笑)」
5人の子どもを連れ、念願のギリシャ移住を果たしたパメラさん。日本食の料理人や日本語教師として生計を立てながら、現地の料理を学んだ。その頃に強く感じるようになったのが、母国アメリカの食文化が抱える問題だったという。「アメリカ人の多くは加工食品中心の食生活が当たり前になっていますが、私はギリシャや日本での経験から『リアルフード(本当の食べもの)』、つまり新鮮な素材を自分で料理して食べる喜びを感じていました」。そこでパメラさんはアメリカに戻り、大学で栄養学を履修。その後再びギリシャに渡り、チーズやヨーグルトの作り方を習得するなど、さらにギリシャ料理に深く傾倒していった。
そして2012年、ギリシャに訪れた経済危機が来沖のきっかけになる。「戻るとすればアメリカではなく、日本と思っていました。ちょうどその頃、静岡の友人が結婚を機に沖縄に引っ越して、『パメラも来ない?』と誘ってくれたんです」

最初は伊計島のコンテナを改装して
小さなギリシャ料理店からのスタート

来沖当初は小学校で英語教師をしながら、ギリシャ料理に欠かせない「フェタチーズ」という塩味の効いたフレッシュチーズやヨーグルトを、家族のために手作りしていたというパメラさん。これらを使ったギリシャ料理を知人に振る舞ううちにおいしいと評判になり、これが起業の発端に。「『お店を出したら』という声もあったので、まずは2015年に伊計島で小さな店を開きました。お客様が増えるにつれてお店も厨房も手狭になり、新しい場所を探していた時に、今の読谷の物件に出会ったんです。2016年の移転と同時にお店も法人化して、手伝ってくれていた友人が共同経営者として加わってくれました」
現在はレストラン営業とチーズ・ヨーグルトなどの製造を両輪として、日々仕事に奮闘しているパメラさん。「店を訪れるお客様は県内の方、県外の方、そして海外の方とさまざまです。アメリカ人客の中には、『こんなおいしいものを初めて食べた』と心から感動してくれる人もいます。私の料理で沖縄の方々にギリシャ料理の魅力を、そしていつか母国アメリカにも〝リアルフード〟の価値を伝えていけたら嬉しいですね」と笑顔を見せてくれた。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ53号」電子ブックにてご確認ください

読谷の店の大きな窓から一望する海の景観は、「ギリシャにも、そして生まれ故郷のアメリカ・サンフランシスコにも似ている」とパメラさん。2018年1月にはチーズ製造の設備も強化し、品質のいいチーズをより安定的に作れるようになった

レストランの料理にもふんだんに使われるパメラさんのフェタチーズは、瓶詰めの「マリネードギリシャ風フェタチーズ」としてイオン那覇店、イオンスタイルライカム店の店頭やネットでも購入できる(100g入り950円・税別)。「本来は山羊や羊の乳でつくりますが、沖縄では入手が困難なので県産の牛乳でつくっています。飼育農家が増えて山羊乳が入手可能になる日に期待したい」とパメラさん。左端はギリシャ風ヨーグルトを使ったディップソース「ジャジキ」。野菜に、肉や魚に、あるいはパンにつけても美味

株式会社アリシス沖縄
読谷村長浜1189-3-B ☎098-989-7777
https://www.littlegreekkitchen.com



サイドテーブル
それぞれの「Why Okinawa?」

イギリス、中国、韓国、そして アメリカ。
4人の外国人起業家の「Why Okinawa?」は
まさに"四人四様"だった。

ジョン・デイビスさん
「引退後を暖かいところで暮らしたくて」

⇒"ソウルフード"であるチーズを亜熱帯でつくる可能性に覚醒

唐 宏英(タン・ホンイン)さん
「美しい海と自然、 人々の優しさに魅せられて」

⇒貿易を通じて沖縄をアジアとつなぎ、恩返しをしたい

姜 斗連(カン・ドゥリョン)さん
「石垣島出身の夫との結婚を機に」

⇒人の心の温かさと住みやすさ、そして商売の面白さを発見

パメラ・アンさん
「大切な知人が招いてくれた縁で」

⇒ギリシャ料理の美味しさを沖縄から日本へ、そして海外へ

今回の4人が展開するのはいずれも食品関連のビジネスだが、IT系・バイオ系・サービス系・小売系といった分野でも、まだまだ多くの外国人起業家がここ沖縄でビジネスに取り組んでいる。業種は違っても彼らに共通しているのは「旺盛なバイタリティ」と「"沖縄"の風土・文化・慣習・人に対するリスペクト」、そしてウチナーンチュと巧みに連携しながら、外国人ならではの新たな視点で他にはない付加価値を生み出す「イノベーティブな事業展開」といえそうだ。