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【52号特集】麹(こうじ)のチカラ 〜沖縄に息吹く発酵食品ビジネス〜

2017.12.22 Fri.


【52号特集】麹(こうじ)のチカラ
〜沖縄に息吹く発酵食品ビジネス〜



泡盛づくりに欠かせない黒麹、豆腐ように用いられる紅麹など、琉球王朝時代から沖縄で連綿と活用されてきた麹菌。高温多湿の気候下で醸し出される県産の麹製品は、独特の旨みや甘み、酸味を持ち、県内外で多くの人に親しまれている。近年では、日本酒や味噌などに用いられる黄麹を使った県産品も登場し、沖縄の発酵食品の幅がさらに広がってきた。今回は麹を活用した新たな商品の開発と販路拡大にチャレンジする県内事業者の取り組みを紹介する。



【黄麹のチカラ】
「発酵食品で県民の健康に貢献」
商品開発では企業連携も視野に
-株式会社仲宗根糀家-

自らの病を機に
酵素を生産する麹の力に気づく

2013年に開業し、「酵素甘こうじ」「モズクの王様」「糀(こうじ:注1)の糖」など次々と麹加工食品を生み出している株式会社仲宗根糀家。代表取締役社長の仲宗根悦子さんは、開業までの経緯をこう語る。
「40代で病気を患ったのですが、その時に『体は食べ物からできている』と実感し、自分が口にするもののことをもっと学ぼうと思いました。サプリメントアドバイザーの資格を取得する中で〝酵素〟の可能性に関心を持ち、麹菌の酵素生産力の高さを知って麹加工食品をつくろうと考えたのです」
九州のメーカーから黄麹の種麹(注2)を入手し、蒸した国産米につけて米麹をつくったのが2013年のこと。「当初は『甘酒』としてスーパー店頭で試飲販売をしていましたが、沖縄ではまだ馴染みがなく、アルコール入りと誤解されることも多くて、販売の難しさを思い知りました」。そう話す仲宗根さん自身も、麹の力に気づいたのは塩麹がブームになった2011年頃だという。「学んでいくうちに、米麴は〝酵素の宝庫〟であり〝飲む点滴・飲む美容液〟といわれるほど優れた食品だと実感しました。米麹を知って食の捉え方も大きく変わりましたね」。その後は根気強い説明販売が功を奏し、購入者の口コミで徐々に評判が広がっていった。現在は「酵素甘こうじ」の商品名で冷凍の状態で販売しており、同社の主力商品として手づくりで月間約2800パックを販売するまでに至っている。

※注1:「糀」...「糀」は和製漢字で、蒸し米に麹菌をつけて発酵させた「米こうじ」の意味。なお「麹」は中国から伝来した漢字で、米や麦、豆などで作られる「こうじ」全般を指す。

※注2:「種麴」...味噌・醤油・酒など醸造食品と呼ばれる食品の製造に用いる「麹」をつくる際に、麹菌を供給する目的で蒸米などに加えるもの。米などを原料に麹菌を培養し、胞子を十分につけさせた後、乾燥させたものが一般的。

製造工程の機械化にも着手
新商品開発も積極的に進める

仲宗根さんはさらに、加熱処理したモズクに麹を加えて発酵させた「モズクの王様」、甘こうじを濃縮した砂糖代わりの甘味料「糀の糖」などを次々に開発。いずれも固定客を得ているというが、その背景には地道な説明努力があった。「試食・試飲していただいたり、麹に関する講習会を定期的に開催しながら、丁寧に説明しています。当社の商品の良さや特徴を、初めてのお客様にすぐ理解していただくのは難しいのですが、最近は発酵食品への関心が高まっているからか、興味を持ってくださる方が徐々に増え、口コミや紹介でじわじわとお客様の数が増えてきました。今はほとんどの方がリピーターです」
米の蒸し方や麹菌の扱いには日々細心の注意を要するので、苦労が絶えないものの「麹づくりは本当に面白い」という仲宗根さん。2017年11月には沖縄県産業振興公社(以下、公社)の機械類貸与制度を利用し、機械化を図って生産能力をアップさせた。「チンヌク(サトイモ)の発酵食品など、新商品の試作にも取り組んでいますが、さらなる可能性を感じています。麹の甘さを生かし、砂糖を使わないお菓子などもつくれるので、県内の食品メーカーと連携して多くの関連商品をつくっていきたいですね」
生活習慣病などに悩まされている人が多いとされる昨今の沖縄だが、「麹などの発酵食品をもっと広めていくことで、県民の健康増進にも貢献できればと思います」と仲宗根さんは展望を語ってくれた。


※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ52号」電子ブックにてご確認ください

「酵素甘こうじ」はイオン那覇店など県内イオン 系列の11店舗のほか、コープ(あっぷるタウン店 ほか)や健康食材店などで購入できる。600ml入 り648円(税込)

国産米に黄麹をつけた「米糀」を使えば、各家庭で甘こうじや塩こうじなどを簡単につくれる。200g入り380円(税込)「糀の糖」は独特の風味と旨み、そして穏やかな甘みが特徴。生キャラメルのような香ばしさがクセになる。料理や菓子づくり、コーヒーなどに砂糖の代わりとして使える。380g入り756円(税込)

仲宗根悦子さん。甘こうじの作り方や米糀を使った調理法などの講習会では直接指導に立つ。開催情報は同社ウェブサイトで確認を

株式会社仲宗根糀家
那覇市国場397-1 ☎098-833-0710
http://www.koso-okinawa.com



【紅麹のチカラ】
紅麹の〝旨みを引き出す力〟に着目
華やかな色彩にも可能性を見出す
-株式会社マキ屋フーズ-

発酵学の知識と前職の経験を活かし
やんばるから個性的な商品を発信

沖縄では「豆腐よう」の製造に、また海を渡った中国では紹興酒や酢の醸造に使われる紅麹。これを活用した商品を開発している株式会社マキ屋フーズの代表取締役、金城正直さんに、開発への道のりについて伺った。
「2008年の創業から数年間は、アグー
などの県産品を扱う卸売業が主体でしたが、いずれは紅麹を使った商品を手がけたいという夢がありました。琉球大学農学部で応用微生物を学び、卒業後は豆腐ようなどを製造する食品メーカーに年間勤める中で、紅麹が食品の旨みを引き出す性質に、魅力と可能性を強く感じていました。ですが、市場に出回っている紅麹といえば健康食品のサプリメントがほとんど。『この旨みを味わわないのはもったいない』『食品としてのおいしさをもっと広く知らせたい』と思っていたんです」
転機は2013年、名護市が6次産業化による農業活性化を目指して整備した施設「なごアグリパーク」の誕生だった。同パークには食品加工のための各種製造設備が備わり、入居企業はそれを自由に使えると知った金城さんは入居を即決。最初は島らっきょうのドレッシングやポン酢の製造からスタートし、軌道に乗ったところで本命の紅麹関連商品に乗り出した。
「公社の中小企業課題解決プロジェクト推進事業などを活用して2013年に商品化した『マキ屋の紅こうじ』(右写真)を自社製造に切り替えました。豆腐ようをつくる時は紅麹・泡盛・塩などを使った漬け汁に、塩漬けにした豆腐を漬け込んで熟成させますが、『マキ屋の紅こうじ』は豆腐の代わりに豆乳を加え、さらにやんばる産の島トウガラシも加えて発酵・熟成させています」。紅麹の働きによって旨み成分が効率的に産出されるため、ほどよい辛さとまろやかな旨みをバランスよく実現。2017年2月には製法特許も取得し、現在は料理教室の開催やレシピ(右写真参照)の紹介など、一般家庭や外食業界へのアプローチを積極的に行っている。

地元・羽地の米を使った
「紅あまざけ」がブレイク寸前

最新作は2017年8月発売の「紅あまざけ」(左ページ写真参照)だ。甘酒は近年全国的なブームとなっており、沖縄県工業技術センターから紅麹甘酒のアイディアと試作品の提供を受けた。「紅麹菌は培養が大変難しく、他の菌に汚染されやすいので、工業技術センターの研究員の方々に技術指導をお願いしました。一緒に試行錯誤を繰り返し、カ月がかりで甘酒に適した製造工程の確立に成功しました」
県内外の商談会にも自ら足しげく出向く金城さんだが、甘酒に関しては「紅白セットを」「冷凍・冷蔵タイプも欲しい」といった声にも即応。「白あまざけ」は3週間で試作品を完成させ、冷凍・冷蔵タイプも近日中に実現するそうだ。「私は〝バイヤー第一主義〟で、要望にすぐ応えるのを信条にしています。売り手が売りやすい商品でなければ、つくる意味がないと思うんです」。技術者でありメーカーであり卸売業者である、という金城さんならではの言葉だ。
出身地の羽地産の米を活用している点も見逃せない。「羽地は幼い頃には『羽地ターブックヮー』と呼ばれる稲作の盛んな地域でした。地元の米を活用し、懐かしい田園風景を復活させたいという想いもあります」と金城さん。2017年5月の収穫期には地元のJAから1トンの米を調達。徐々に買付量を増やす計画もあるという。紅麹に魅せられ、地元の産業振興を後押ししようとする金城さんの商品が、羽地の田園風景復活への端緒を開く日を心待ちにしたい。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ52号」電子ブックにてご確認ください

特に肉と好相性だという「マキ屋の紅こうじ」は、肉料理以外にもさまざまなレシピが。他の調味料と組み合わせれば彩り華やか・旨みたっぷりのソースとしても楽しめる。常温保存可能。200g入りパウチタイプは1000円(税別・写真左端)

断面のピンク色が可愛い「紅こうじパン」は、噛むほどに増す旨みと、もちもちの食感が人気。紅麹は生チョコレートやクッキーなどのスイーツ製造にも活用できる

華やかなピンク色の「紅あまざけ」は
爽やかな酸味とほのかな甘み、深み
のある旨みがマッチ。黄麹を使用し
た「白あまざけ」との紅白セットで、
ブライダルなどへの引き合いがある
そうだ。180g入り800円、紅白セット
は1600円。500g入りは2本セットで
2500円(いずれも税別)※写真の商
品は、いずれも『なごアグリパーク』のマキ屋フーズ店頭で購入できる

金城正直さん。現在はパートを含めた8名体制で、商品開発と営業は金城さんが自ら担当している。社名は、出身地の羽地・真喜屋(まきや)からのネーミングだ

株式会社 マキ屋フーズ
名護市字名護4607-1 ☎0980-54-5889
https://okinawa-yanbaru.co.jp



【黒麹のチカラ】
県内唯一の黒麹菌の種麹の製造元
独自の商品開発で新たな挑戦
-有限会社 石川種麹店-

〝沖縄ブーム〟を受け製造設備を増強
しかし泡盛出荷量下降とともに苦境へ

泡盛の製造に使われる黒麹の種麹を、県内で唯一製造・販売しているのが有限会社石川種麹店だ。創業者の娘で現代表を務める渡嘉敷みどりさんに話を聞いた。
「当社は1956年に父が設立しました。沖縄戦で焼き尽くされた中、黒麹菌を探して県内各地を回った父が与那国島の蔵元から土壌を持ち帰り、それを培養して復活させたものが、現在も当社に引き継がれている黒麹菌です」
同社が現在取り扱う種麹は、2種類の黒麹菌を独自の配合比でブレンドするため、県外製の種麹と比較してクエン酸の酸度や香りの調整等が可能なのが特徴だ。県内の泡盛メーカー社中社が同社の種麹を使っており、菌の配合比など個別のオーダーにも応じているという。
両親が自宅の作業場で種麹づくりに励む姿を見て育ち、時に手伝いもしていた渡嘉敷さんは、1990年に二代目社長に就任。その後、2001年にドラマなどの影響で沖縄ブームが到来し、2004年には泡盛の出荷量がピークに達したため種麹の生産が追いつかなくなり、現在の工場を構えることに。「種麹は蒸した玄米に黒麹菌を加えてつくります。自宅で一度に蒸せるのはkgまでで、3時間かかっていたのが、工場では倍量のkgを分で蒸せるようになり、生産量が飛躍的に上がりました」
しかし皮肉なことに工場完成の頃には沖縄ブームが収束。泡盛の出荷量も下降線をたどり始めた。「種麹の出荷量もそれに比例して減り、ピーク時の2002年と比べて今は3分の1にまで減少してしまいました。当社としては非常に深刻な状況に直面し続けている状況です」と渡嘉敷さんは厳しい表情を見せる。

泡盛出荷量の減少を逆手に
黒麹を活用した新商品を開発

このままでは県産の黒麹種麹をつくり続けることが困難になる。そこで同社は公社の中小企業課題解決プロジェクト推進事業の採択を受け、全く新しい黒麹加工食品の開発に着手。2016年に完成したのが健康ドリンクの「黒麹玄米」だ。「げんまい」といえば沖縄では昔から愛されている、米を使った甘い飲み物だが、同社の「黒麹玄米」は文字通り蒸した玄米に黒麹をつけた種麹だけでつくる全麹仕込み。甘酒ともろみ酢を足したようなほのかな甘みと酸味が特徴だ。「元々は私たちつくり手が作業の疲れを癒すのに飲んでいたものなんです」と語る渡嘉敷さんだが、商品化にあたっては黒麹菌の配合比率や浸透度合いを試行錯誤し、飲みやすく栄養価の高いものに仕上げたそうだ。
「実は黒麹は、黄麹に比べて研究事例が少なく、栄養価などについても未解明なことが多いんです。今後研究が進み、優れた機能性食品として科学的にも証明されれば、大きく飛躍する可能性を秘めています」と渡嘉敷さん。現在、泡盛マイスター協会が「琉球料理と泡盛(黒麹菌)」のユネスコ無形文化遺産登録を目指し、世界遺産登録推進委員会がさまざまな活動を行っているが、渡嘉敷さんはこの取り組みの中で発酵学者の小泉武夫さんと会う機会があったという。「初対面でいきなり『これからは黒麹甘酒が売れるよ』と言われ、そのひとことが『黒麹玄米』の商品化のきっかけになりました」
泡盛メーカー向けの種麹づくりに追われていた時は、玄米ドリンクの商品化など考えもしなかったと振り返る渡嘉敷さん。今後はさらに、黒麹ならではの高いクエン酸を生かした味噌や塩麹といった新たな商品を、沖縄県工業技術センターや琉球大学と連携しながら開発していく計画だ。「黒麹を活用した加工食品などに興味がある事業者さんとは、積極的にコラボしたい」とのこと。さらなる新商品の誕生が実に楽しみだ。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ52号」電子ブックにてご確認ください

「黒麹玄米」は黒麹菌ならではのクエン酸をはじめ、玄米に含まれる食物繊維やビタミンE・B1・B2のほか、ナイアシン・天然クエン酸を豊富に含んでおり、疲れやすい人や毎日美しく元気に過ごしたい人におすすめ。50ml入り350円、100ml入り540円(いずれも税込)。北谷町のうみんちゅ市場、北中城村のイオンスタイルライカム店内「食と美と健康のフロア」で販売中だ

黒麹菌にはアワモリ菌、サイトウイ菌(サイトウ菌とも表記)、イヌイ菌などがあり、それぞれに特性が違う。最近では、戦前の泡盛づくりに使われていたイヌイ菌を培養した希少な種麴を供給した(瑞穂酒造が「イヌイ菌仕込み原酒」として2017年10月に発売)

渡嘉敷みどりさん。2005年からは夫の正司さんも麹づくりに加わり、2017年からは泡盛メーカーでの修業を終えた長男の建孝さんも経営に参加。新たな風を呼び込むために一家で奮闘している

有限会社 石川種麹店
北谷町字宮城1-651 ☎098-936-3072
http://kurokouji.jp


◇ ◇ ◇

日本の食卓に欠かせない調味料の原料となる麹菌は、日本醸造学会によって2006年に「国菌」に認定された。2013年12月には「和食日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、日本の発酵食品についても、今後さまざまな研究や取り組みが進むだろう。麹菌のおいしさや健康効果についてのエビデンス(科学的根拠)が明らかになれば、世界規模でのヒットもあり得る。その時までに、沖縄県内の事業者は「麹」にまつわる魅力的なコンテンツをどれだけ持てるだろうか。企業間・産学官などの連携も進みつつある沖縄の麹ビジネスの未来を、今後も注視していきたい。


COLUMN
知っておきたいミニ知識
麹と酵素と酵母

「麹(こうじ)」とは?
米・麦・大豆などに「麹菌(」かびの一種)を繁殖させたもの。この「麹菌」が「酵素」を生産する。

「酵素(こうそ)」とは?
生物(麹菌など)によってつくられるタンパク質からなる有機触媒の総称(触媒とは、自分自身は変化をせず、他の物質の化学反応の仲介役として、反応の速度を速めたり遅らせたりする物質のこと)。「酵素」はデンプンをブドウ糖に分解したり、タンパク質をアミノ酸に分解したりする。なお「酵素」は生物ではないため、活動しなくなる状態を「失活(活動を失う)」という。

「酵母(こうぼ)」とは?
自然界の植物、樹液、花蜜、果物などに生息する菌、つまり単細胞の微生物である。「酵母」をはじめとする微生物は有機物(食物)を利用して分裂しながら増殖するが、その際に有用な物質を生産するとき、これを「発酵」という。例えば泡盛づくりでは、黒「麹」菌のもつ「酵素」がデンプンを分解してブドウ糖をつくり、その糖を「酵母」が食べて、アルコールと炭酸ガスに分解する、という働きを利用している。