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【51号特集】ものづくりの魂(マブイ) 〜うちなーエンジニアたちの挑戦〜

2017.10.24 Tue.


【51号特集】ものづくりの魂(マブイ)
〜うちなーエンジニアたちの挑戦〜



「製造業不毛の地」といわれるほど、ものづくり産業が根付きにくいとされてきた沖縄。産業別県内総生産の構成比を見ると、本土復帰の1972年度で製造業は9.7%と、全国の34.5%を大きく下回り、2013年度は4.2%(同年全国18.4%)※と、製造業のウエイトの低さが長く続いていることがわかる。沖縄で製造業の振興が難しい理由としては、島しょ県特有の物流の問題に加え、製造業を支える金型・金属加工・熱処理・ メッキ・機械制御などのサポーティング産業 が未発達であることが挙げられてきた。しかし実は近年、そうしたサポーティング分野から独自のものづくりに挑戦する県内事業者の活躍が目覚ましく、新たな鼓動が脈打ち始めている。今回の特集では、そんな”沖縄のものづくり”に新風を吹き込む2社の動きを紹介する。

※出典:出典:沖縄総合事務局ウェブサイト「沖縄県経済の概況」2016年10月



沖縄の小さな町工場から世界へ
さらに宇宙へと夢を追い続ける
-株式会社立神鐵工所-

公共工事依存からの脱却を図り
”世界を狙える”自社商品を開発

従業員20名の小さな鉄工所が開発した、風に飛ばされにくいビーチパラソル。これが県内、県外のみならず世界からも注目を集めているのをご存じだろうか。開発したのは「沖縄から世界へ翔(かけ)る」をキャッチフレーズに掲げる株式会社立神鐵工所だ。
同社代表取締役社長の上江洲正直さんは工業高校機械科を卒業後、町工場の職人として年ほど修業を積み、2001年に立神鐵工所を立ち上げた。「最初は公共工事の孫請けを中心に各種工事や金属加工を手がけながら、技術に磨きをかけてきました。しかし10年目頃から、『このまま社員が夢を描けない仕事を続けていいのか』と自問するようになり、2013年に当時売上の85%を占めていた公共工事をきっぱりやめようと決意しました」
ちょうどその頃「太陽光パネルを砂地に設置したい」という相談を受けていた上江洲さんは、砂地に強い基礎杭の独自開発に着手。県内外の太陽光発電所や機械メーカーなどに通って勉強を重ね、抜けない杭の形状を四六時中考え続けた。「折り紙を丸めてああでもない、こうでもない、と。食事に行くときも折り紙を手放さず、ついにアイディアが閃いたのはトイレの中でした(笑)」。すぐに試作に取り掛かり、試行錯誤の末、地質によっては1トンの力でも抜けない自社オリジナルの鋼管杭「ワールドパイル」を完成させた。

開発と同時に特許出願
先見の明で県外への扉が開く

ワールドパイルの特許の取得を開発段階から視野に入れていた上江洲さん。「沖縄県発 明協会の無料相談を利用して類似商品がな いか確認し、県外の弁理士の指導を受けながら特許出願申請を行いました」。早期審査を申請した甲斐あって申請から1年弱で無事に特許を取得し、2015年の第回沖縄県発明くふう展では県知事賞も受賞。東京や大阪での全国規模の展示会にも出展したところ、県外大手企業から多くの引き合いがあり、大きな取引に繋がったため2016年には法人化も行った。

このワールドパイルの技術を活用して開発したのが、冒頭で紹介した琉球生まれのビーチパラソル「RyuPara(リューパラ)」だ(写真)。風と塩害と紫外線、これがビーチパラソルのいわば”三重苦”で、特に風への対策がなされた商品は世界的に見てもほぼ皆無だったという。「RyuParaは風速20mの実証実験でも抜けず、逆に撤去時には簡単に抜けるという便利さを両立しました。メディアで紹介されて以来、ビーチやホテルなどだけでなく観光施設、畑の日除けなど様々な用途で数多く問い合わせをいただいています」

「やると決めたらやるしかない」
困難を困難と思わず、果敢に攻める

完成から約2年、RyuParaは豊見城市の美らSUNビーチや本部町の海洋博公園などに約600本を納入。さらに上江洲 さんは現在、産業振興公社の県産工業製品海外販路開拓事業を活用し、世界各国のビーチリゾートに直接セールスをかける取り組みに挑んでいる。「ある人から『沖縄のビーチの悩みは、世界中のビーチの悩みと同じ』と聞かされたのがきっかけでした。ビーチパラソルは夏の商材ですが、通年で売上が立つように南半球の国々に商談に出かけ、2016年9月にはオーストラリアに会社を 設立しました」。またブラジルでは、自社商品だけでなく他の県産品も一緒に南米に流通させるための販路整備を検討しているという。
あふれるアイディアと営業力、行動力を持 つ上江洲さん。「やると決めたらやるしかない」を信条に、夢の実現のためにためらうことなく外へ出向き、多くの人と出会う中からビジネスチャンスを広げている。「いいものをつくればすぐに類似品が出回りますが、その前に次のヒット商品を生み出せばいい。若い感性を持った社員たちを育てながら、これまでの鉄工所にはできなかった”メイド・イン・ジャパン”をつくりたいですね」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ51号」電子ブックにてご確認ください

RyuPara(リューパラ)は「ワールドパイル」の特許技術を活用し、砂地に杭を深く挿し込んだところで「かえし(開閉式抵抗羽)」を開いて固定する構造。取り外し式の回転ハンドルを回し、ドリル状の先端を砂浜に直接ねじ込める。骨組みを強化した傘の部分は二段構造で上部は風が抜けるため、飛ばされにくいのも特徴だ

海外への販路開拓も進むRyuPara。クリスマスシーズン用にイルミネーションを施したポールも新たに開発中だ。沖縄県発明くふう展では2015年の県知事賞に続き、2016年には意匠の部で最優秀賞に輝いた。ポスターなどに使用されるキービジュアルのデザインは県出身の点描画家として知られる大城清太さんによるもの

「沖縄の小さな町工場でも世界を目指せることを証明したい」と2016年に開催されたアジアクロスカントリーラリーのスポンサーに就任。タイ〜カンボジアを舞台にしたアジア最大規模のモータースポーツ大会のスタートとゴールに、世界的なメーカーと肩を並べてRyuParaの名が表示された

「それまで変わらなかったものが変わった時、ビジネスになる」という上江洲正直さん。「いずれはRyuParaに星条旗をつけて火星に立てます」と語る表情は真剣そのもので、具体的な道筋もすでに模索中だという

株式会社立神鐵工所
豊見城市金良342-1 ☎098-856-4546
http://www.tachigami.com



県内企業の夢を機械の力で実現
生産設備のしくみづくりに力を注ぐ
-ティーエスプラント有限会社-

造船設計から食品・包材商社を経て
沖縄のものづくりを担う存在へ

県産の農水産物の加工を行う機械の設計から製作、組み立て、設置までを一貫して行うティーエスプラント有限会社。同社代表取締役の友寄喜隆さんは県外で造船業の設計技術者としてのキャリアを積んだのち、1986年に沖縄に戻って食品・包装資材の商社を設立。そして2001年に食品生産設備の会社を設立、という経歴を持つ。「造船設計の仕事ではものづくりの全てに通じる基礎を習得できたと感じています。そして商社の仕事では、沖縄の食品、特に農産物加工品の市場の実態を把握することができました。その上で本来やりたかったものづくりの会社を立ち上げた、という流れです」
設立当初は機械図面の製作・販売や機械設置工事の業務が主体だったという友寄さん。「特に多かったのは、県内の食品加工業者が購入した設備や機械を工場内に設置する業務でした。扱うのはほとんどが県外製の機械で、この仕事を通して多くの技術を吸収できました」と語る。しかし、万一のトラブル時や定期点検時に県外から人を呼ぶ必要があるなど、県外製の機械を使えば事業者の負担も大きくなる。そんな状況を目の当たりにし、友寄さんは「沖縄でとれる作物や素材に対応できる機械は、県内でつくるべきではないか」との想いを強くし、毎年利益の5%を研究費に充てながら、自社独自での機械設計に取り組んできた。

急速冷凍や果実選別、殺菌など
特許水準の技術を次々に考案

そして2016年に完成したのが、マンゴーの大きさ、色、そして糖度を全自動で識別し果実を選別できるマンゴー選果機だ。マンゴーに糖度などの情報を表示するには選別の基準を明確化する必要があるが、その条件を満たした同社の選果機は付加価値が高く、高価格でも引き合いが多いという。
農水産物を「どう加工するか」という点のみならず、「どう売るか」という販売強化まで意識して設備の設計や開発を行っているのも同社の大きな特徴だ。「例えば2017年に特許を取得した自社開発の急速冷凍庫は、マンゴーやバナナ、フルーツパパイヤなどの果実感をそのままに凍結させる機能を実現しました。県外や海外など遠くの市場へも穫れたての味や鮮度を保ったまま販売できると好評で、県内だけでなく県外からの引き合いも増えています」。県外への販路拡大に向けて市場調査などを進めるため、東京営業所も開設したそうだ。

生産者や技術者と手を携え
沖縄県産品の魅力を世界に発信

沖縄のものづくりについて、友寄さんはこう俯瞰する。「県内には素晴らしいアイディ
アや技術を持っている人が多い一方で、効率
よく量産し、広く販売するまでの全体像が
描けず、悩んでいる人も実に多いと感じま
す。当社の使命は、そうした方々のための機
械やプラントを提供し、夢の実現のお手伝
いをすること。そのためには設計を一から行
うだけでなく、既存の機器の改良、他社製
機械と組み合わせた全自動化など、ニーズ
に応じた臨機応変な対応が必要だと感じて
います」

そんな友寄さんの根底にあるのは「培った
技術を駆使し、沖縄のものづくり全体を強
くしたい」という想い。沖縄産の素材を大切
に育てている農水産業者とも連携しながら、県経済の発展に寄与できればと考えている。「農作物や食品への安心・安全意識の高まりを受け、今後はグローバルGAP(注1)やHACCP(注2)といった認証の取得なども求められるようになります。当社はそれらにも対応できるよう技術を磨き、沖縄県産品の魅力をもっともっと広く発信するお手伝いをしていきたいですね」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ51号」電子ブックにてご確認ください

食品の加工と包装を一元化した「深絞り包装機」(上・左写真)も自社開発。「ハムなどの加工品製造向けで、当社の機械は従来比で3倍ほどの製造スピードを実現しました」と友寄さん

同社の技術を結集させたマンゴー選果機。最新のセンサーを備え、高度な品質管理を可能にした。2017年5月にはJAおきなわ豊見城支店のマンゴー・トマト新選果場にも採用され、出荷量増産の促進につながった。急速冷凍庫に続き、こちらも特許申請中だ

友寄喜隆さん。機械設計者の育成には5年はかかるといわれる中、「中古機械を分解して組み立て直す」といった独自の手法で、社員を2年で一人前に成長させている。そんな友寄さんのモットーは「機械は機械」。その心は、「電気・機械・制御などに分けるのではなく、全体として機械を見ることが重要。そうすることで、『使う』側にとってより使いやすく、成果も上がる機械をつくれるようになる」とのこと

ティーエスプラント有限会社
豊見城市字金良387-1 ☎098-851-2262
http://www.tsplant.co.jp

◇ ◇ ◇

今回紹介した2社に共通するのは、社長自らが高い技術力を備え、ものづくりの面白さと醍醐味を知る人物だということ。また、開発や製造の現場を熟知しながらマーケット感覚も持ち合わせたセールスエンジニアでもあるということ。そして下請け中心のサポーティング企業として業績を重ねながら、自社の”オンリーワン”の価値を見出し、それを活かして県内から県外、そして世界へと業域を拡げようとしていることだ。こうした取り組みの先に、沖縄から世界をあっと言わせる技術、世界をうっとりさせる商品が次々と芽吹く、そんな未来が待っているのだろう。


COLUMN
「沖縄ものづくり技術展2017」が
県工業技術センターで初めて開催

2017年8月29日から31日までの3日間にわたり、沖縄県工業技術センターにおいて沖縄県主催の「沖縄ものづくり技術展2017」が開催された。県内のものづくり企業や学術研究機関など、企業間・産学間の連携や交流を通じた新たなビジネス・イノベーションの創出など、県内でのものづくりの振興につなげることを目的に講演会・セミナー・ブース展示などが行われ、連日多くの来場者で賑わった。
県内ものづくり企業15社によるブース展示はもちろん、基調講演とパネルディスカッションからなる講演会、NC旋盤や3Dプリンタ、高性能カメラ、製品設計シミュレーションを学ぶセミナーにも多くの参加者が集まっていた。印象的だったのは県内工業系学生の姿が多かったこと。これは技術展の目的のひとつに「工業系学生等の参加を促進し、若者のものづくり産業への関心を高める」と掲げられた通りで、企業ブースでは多くの学生が担当者に次々と質問を投げかけ、熱のこもった説明が行われていた。
さらに今回の技術展は、出展企業と参加者の間の人的ネットワークの形成だけでなく、出展した企業同士の交流や人脈構築という点でも大いにその意義を発揮したといえそうだ。なかなか接点を持つことのない異分野・他地域のものづくり企業同士が交流を持つことで、思いがけない新たなアイディアが生まれたり、既成概念を超えた斬新な技術が誕生する可能性は決して小さくないからだ。
「ものづくりに不利な沖縄」という先入観は、せっかくのアイディアや技術を埋もれさせてしまいかねない。そうした先入観をいちど取り払い、改めて県内でものづくりに携わる事業者たちが持つ技術と可能性を見直してみてほしい。「県外に依頼するしかない」と思い込んでいた加工や包装、高機能化、高付加価値化などが県内で実現すれば、ビジネスチャンスは大きく広がるだろう。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ51号」電子ブックにてご確認ください

企業の展示が行われたブースには多くの来場者が足を運んだ

パネルディスカッションでは県内のものづくり事業者・支援機関からパネリストが登壇し、連携や人材育成・確保について意見を交わした

 

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