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【49号特集】一兆円市場への挑戦! OKINAWA発ペットビジネス

2017.03.24 Fri.


【49号特集】一兆円市場への挑戦!
OKINAWA発ペットビジネス



少子高齢化が進む一方で拡大を続けるペット関連市場。その規模は一兆円をゆうに超えるとされ、全国の推計飼育頭数も犬・猫合わせて1972万5000頭(*)と、幼稚園から高等学校までの在学者数(**)を400万以上も上回るという。そんな中、ここ沖縄でもペットに関連する先進的な製品・サービスの開発がさまざまなフィールドで進みつつある。

*:一般社団法人ペットフード協会調べ/平成28年全国犬猫飼育実態調査より
**:1501万1017人/文部科学統計要覧(平成28年版)より



フィールド1:小売・流通
”家族の一員”であるペットとの
心豊かな暮らしをつくる
-オム・ファム株式会社-

県内最大級の大規模イベントを開催
2日間で6000人以上が来場

2016年12月、沖縄コンベンションセンターで開催された県内初の大規模なペット関連イベント「ペットカーニバルinおきなわ2016〜命(ぬち)どぅ宝(たから)〜」。小売業者主導でメーカー協賛を集めるという業界初の開催方式で、2日間の総来場者数は6000人以上。県内ペット市場の今後の成長性を改めて実感する結果となった。
主催したのは北谷・那覇で総合ペットショップ「PET BOX」など3店舗を運営するオム・ファム。代表の中村毅さんは1995年、県内初の大型ペットショップとして約8000アイテムを揃えた北谷店をオープンし、県内でほとんど販売実績のなかったペットシーツやプレミアムフードなどの需要を掘り起こした人物だ。人口増加を見越した那覇新都心への出店、商業用途も視野に入れた観賞魚専門店の開業など、常にトレンドをリードしてきた中村さんだが、実は5年ほど前からペットショップのあり方について改めて考えるようになったという。

「ペットを売らない
ペットショップ」への道

「ペットの殺処分数の問題と、悪徳事業者による生体繁殖や販売の問題がニュースになることが増え、ペットショップに対する偏見が年々強くなるのを感じていた」という中村さん。大半のショップはペットの命を大切に扱っているのに、一部の事業者の心無い行為で誤解が広がることに心を痛め、「ショップの立場から何か発信できないか」と構想したのが、ペットカーニバルの開催だった。
「まず『命の大切さ』を伝え、ペットは家族の一員だという意識を持ってもらうこと。次に沖縄県の殺処分の現状を知ってもらうこと。そしてペットのいる暮らしの豊かさを伝え、ペット人口を拡大すること。この3つをテーマに掲げてプロジェクトを立ち上げ、関連業者に加え愛護団体や県獣医師会、専門学校などとも協働しながらイベントを作り込んでいきました」。初めての経験で苦労も多かったが、反響は非常に大きかったと中村さん。「当社の会社としての見え方も変わったように感じています。継続を期待する声も多いので、さっそく次回の開催に向けて動き出しました」
そんな中村さんは「ペットビジネス」という言葉に違和感があるという。「ペットとビジネス、つまり命とお金には本来関係性があってはいけない、と思っているからでしょうね。でも、ペットとの暮らしを豊かにするサービスにはビジネス性が大いにあっていいと考えています」。そんな中村さんの当面の目標は「ペットを売らないペットショップ」のビジネスモデルの確立だ。「トリミングと物販を軸に、家族経営も可能な小規模店舗で、半径1km程度なら宅配にも対応し、土日は愛護団体と連携して譲渡会を開く。そんなモデル店舗をつくって広めていきたいですね」。”命どぅ宝”のOKINAWA発ペットショップが全国へと広がっていく日も近そうだ。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ49号」電子ブックにてご確認ください

「ペットカーニバル」にはフード・アクア・小動物・衣料・保険などさまざまな関連業者が32社出展。シンポジウムや譲渡会も盛況だった

代表の中村毅さん。最近では菓子メーカーと共同開発したオリジナルの犬用おやつ「紅いもタルト風ビスケ」がスマッシュヒット。猫用や小動物用も開発中だ

オム・ファム株式会社
北谷町美浜2-2-5 ☎098-989-0090
http://www.petbox.co.jp



フィールド2:IT
”ハートフルテクノロジー”で
ペット用デバイスをつくる
株式会社レキサス

ペットと飼い主の両方を幸せにする
畑違いのプロダクト開発に挑戦

2017年春にリリース予定のペット向けウェアラブルデバイス「Halope iz(ハロペアイズ)」。首元に装着することで日々の活動量を記録でき、そのデータを元にした健康管理や温度センサーによる熱中症の予防などが可能になる。開発したのはソフトウェア開発に軸足を置くIT企業、レキサス。同社がハードウェアプロダクト開発に踏み切った背景について、執行役員・プロダクトマネージャーの大西敬吾さんに聞いた。
「データセンターやモバイル向けサービスの次に当社の軸となる領域を思索していた4年前、動物病院と飼い主さんをつなぐ顧客会計管理システム『Halope H(ハロペエイチ)』の開発に携わったのが発端です。会計情報だけでなくカルテや薬剤処方などあらゆるデータ管理ができるこのシステムに、ペット側からのデータが加われば、病院の経営効率の改善や飼い主とのコミュニケーションの向上、さらには疾病予測などまで期待できるのではないか。ではどうやってペットの情報を集積するか、ということでペット用ウェアラブルデバイスの開発事案が浮上しました」
ただ、こうしたプロダクトの製造は自分たちの領域外だと思っていた大西さん。「まだIoT(注)の概念も浸透していない頃で、完全に畑違いだろうと。しかし、ここだけ他社製というのも違和感があり、ユーザ体験を最大化して差別化を図りたいという想いもあって自社開発に踏み切りました」。初期投資が比較的少なく済むソフトウェアと違い、ハードウェアの開発は試作などの費用が重くなるが、産業振興公社の新産業研究開発支援事業に採択されたことで助成を獲得。2年間の開発期間を経て量産実現にこぎつけ、協力病院での試験利用も間もなく開始予定だ。「デバイスが普及してデータが蓄積されれば、AIを活用したディープラーニングなどで疾病予測も可能になってきます。当社のコンセプトは”ハートフルテクノロジー”。身近な人をできるだけ幸せにしたいという願いです。ペットが家族の一員として大切にされる今、医師と飼い主さんの新しいコミュニケーションツールを当社が手がける意義は大きいと感じています」
(注)IoT:モノのインターネット(Internet of Things)。さまざまなものがインターネットに接続され、相互に情報交換することにより動作や制御を行うしくみ。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ49号」電子ブックにてご確認ください

「Halope iz」。小型犬でも負担にならない9グラムという軽さとスタイリッシュなデザインが特徴。シャンパンゴールドの色合いにもこだわった

大西敬吾さん。「Halope iz開発1年目の終盤、これでいいのかと悩んでいた頃にinterpets(ペット関連の大規模見本市)に出展し、ここで得たつながりが大きなピボット(方向転換)のきっかけになりました。これがなければ2年での量産化は実現しなかった」と振り返る

株式会社レキサス
うるま市字州崎14-17 ☎098-921-3800
https://www.lexues.co.jp



フィールド3:医療
ペットと安心して心地よく
過ごせるしくみと場所をつくる
-動物病院22時株式会社-

高額な治療費負担の軽減と同時に
県内の犬猫殺処分ゼロを目指す

夜間診療対応でも知られる動物病院22時が2014年9月から提供する会員制度「あにまる健康倶楽部aniC(アニック)」は、年齢や健康状態に応じた会費を支払うことで治療費が最大50%割引になるという、全国的にも例のない独自のペット医療サポートシステムだ。一般的なペット保険との最大の違いは、治療が必要になってからでも加入できるという
点。同社代表で自らも獣医師として長年の診察経験を持つ具志堅一郎さんは、「突然の病気や怪我で治療費が高額になると、治療しないという選択をせざるを得ない飼い主さんも出てくる。そこをどうにかしたいという気持ちが原点でした」と話す。
aniCは治療費軽減の他にもうひとつ、大きな理念を掲げている。「2020年までに沖縄の犬猫殺処分ゼロを目指す」というものだ。殺処分数の減少に即効性のある大型シェルター(保護施設)の設置や運営には莫大な資金が必要となる。医療従事者としてその資金を集めるにはどうしたらよいか、考え抜いた末に浮かんだのが、治療費軽減と殺処分ゼロを両輪とする会員制度だった。
制度開始から2年でaniCへの加入数は約6000頭。「驚異的な数字だとよく驚かれますが、まだまだ救えていない子がたくさんいる」と具志堅さん。「病気になってから加入するだけでなく、事前に加入するケースをもっと増やしたいですね。県内で飼われている犬猫は想定25万頭といわれていますが、そのうち5万頭が加入すれば大型シェルターが実現できます。2020年までの目標達成に向け、今後はより広く周知を進めていかなければと思っています」

多様なペットと飼い主が集う
「獣医がつくるペット複合施設」

2015年に同社がオープンしたペットのための複合施設「おきなわベッツパーク北谷」にも注目したい。医療施設や物販店舗の他にトリミングやドッグラン、カフェなどを備え、「より多様なペットと飼い主さんが集まれる、一緒に楽しめる場所になりました」と具志堅さん。施設名の「ベッツ」とは獣医のことで、同社が掲げる「ペットと共に心地よく過ごせる街づくり」を動物医療の立場から具現化した一例といえる。
同施設内には自社運営の保護犬猫譲渡施設「ハートリンク」も設置。譲渡会や子犬の社会化ボランティアなどを定期的に開催し、ペット人口の増加にも寄与している。「当社の主なユーザー層は通院を必要とするペットとその飼い主さんですが、この複合施設ができたことで健康なペットとその飼い主さんとの接点も生まれ、情報発信できるようになりました」と具志堅さん。ゆくゆくは本島南部や離島への展開も考えているそうだ。「動物病院として持続可能な事業展開を模索しながら、殺処分ゼロやペットと共生可能な街づくりを通して社会貢献も果たせるように、私たちだからこそできるしくみをつくり上げていきます」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ49号」電子ブックにてご確認ください

手術はもちろん通院や入院、さらに予防やショッピング、トリミング、ペットホテル利用まで割引対象となる会員システム「aniC」

「おきなわベッツパーク北谷」。24時間診療に対応した「動物医療センター」やドッグラン、保護犬猫譲渡施設のほか、テナントとしてドッグカフェやペット関連ショップが入居している。動物病院22時グループは同施設をはじめ沖縄本島内に8拠点を展開中だ

具志堅一郎さん。2020年までの完成を目指す大型シェルター施設には医療研修センターも併設し、未来の医師候補の育成にも取り組みたいと話す

動物病院22時株式会社
北谷町上勢頭813-4 2F ☎098-989-9476
http://animalhospital22.jp



フィールド4:葬祭
”焼却処理”から”火葬供養”へ
お別れの時間と空間をつくる
-有限会社ワンニャン・メモリアル-

失って初めて気づく存在の大きさ
ペットの死を受け入れるために

2004年から那覇市壺川でペットの火葬セレモニーを行ってきたワンニャン・メモリアル。代表の嘉数喬さんは、「10年前は『ペットも火葬するの?』と驚かれることが多かったのですが、今は『家族の一員なのになぜ火葬しないの?』と大きく意識が変わってきました。ただ、沖縄のペット火葬率は全国に比べてまだまだ低いですね」と話す。
同社は創業当時から、単なる火葬にとどまらず”供養”に主眼を置いたサービスを提供しているという。ペットの死に罪悪感を感じたり、事実として死を受け入れられない飼い主が多く、また自分でそれに気づかずに日が経ってからペットロスに陥る人も少なくないからだ。「当社の個別葬では、火葬の前に個室で読経や献花、お清めなどのお別れのセレモニーを行います。火葬後には焼香をし、改めて遺骨と向き合う。さらに施設内の祭壇にはペットの名前を記した塔婆(お札)を飾り、葬儀後も好きな時に訪れて花を手向けるなどお参りすることができます」。そうして”小さなお別れ”を積み重ねることで気持ちの整理がつく、と口コミや紹介で評判が広まり、多くの飼い主に選ばれているそうだ。
ペット供養を生活の一部に溶け込ませられるのも、アクセスしやすい都市部に拠点を構える同社の特徴だ。住宅街で火葬業を営む上では困難も多かったが、県内焼却炉メーカーのトマス技術研究所が開発した、騒音や煙、匂いを出さない高性能焼却炉「チリメーサー」を導入できることになり、一気に課題が解決したという。「チリメーサーとの出会いがなければ、この仕事は成り立ちませんでした」と嘉数さん。
ペット供養の大切さを地道に発信する一方で、さまざまな供養の形をサービスとして提供できるよう、県外の同業他社の視察にも頻繁に出向き、積極的に情報交換を行っているという同社。火葬供養という形式は浸透し始めているが、今後の先行きについて決して楽観視はしていないそうだ。「ペット販売総数が15〜16年前に一気に落ち込んだことがあり、ペットの平均寿命はおよそ13〜14歳なのでそろそろ影響が出る頃です。また、ペットを亡くした方の中には寂しさから次のペットを飼う方も多いですが、数年後にはAIを活用したロボットペット、つまり〝亡くならないペット〞の需要も増えると予測しています。さまざまな変化に備えながらも、これからも飼い主さんに納得していただける供養の提供を続け、少しずつでも理解を広めていけたらと思います」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ49号」電子ブックにてご確認ください

ペットの名を記した塔婆に囲まれた祭壇。月に一度開催される定例の合同慰霊祭には飼い主が毎回40~50名ほど集まり、大切な“家族”を失った者同士が言葉を交わさなくても慰め合える“場”を共有している

嘉数喬さん。同社は「一般社団法人全国ペット霊園協会」の沖縄唯一の加盟業者でもある

◇ ◇ ◇

小売、IT、医療、葬祭とフィールドは違うものの、共通するのはペットという”生命”をいかに”ビジネス”と整合させるかという難しい課題だ。今回取り上げた4社はそれぞれの立場と理念のもとに課題に向き合い、自社なりの答えを導きながら事業に取り組んでいる。
時代とともに変わりゆくペットビジネス。しかしその”生命の重さ”を変わらずに重んじ続けることが、変化の中で事業を持続させる礎となるのだろう。