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【48号特集】その空室に命を吹き込め! 〜沖縄不動産活用のニューウェーブ〜

2016.12.21 Wed.


【48号特集】その空室に命を吹き込め!
〜沖縄不動産活用のニューウェーブ〜



日本全国の空き家数が増加の一途をたどる中、ここ沖縄では海外からの渡航者を含めた宿泊客増加、また移住などによる県外からの人口流入増加に伴い、不動産の需要が年々高まりを見せている。そんな中、沖縄の空き家・空き物件を新しい視点でビジネスへとつなげる取り組みが続々と生まれているのをご存じだろうか。不動産を取り巻く既存の固定概念にとらわれず、新たな空き家・空き物件の活用法に取り組む県内事業者の動きをレポートする。

◇ ◇ ◇

国が5年毎に行う住宅・土地統計調査の最新結果(平成25年)によると、我が国の総世帯数5245万世帯に対して総住宅数は6063万戸。この供給過剰な状態は昭和43年から続き、余剰住宅戸数は増える一方だ。そして居住世帯のない、いわゆる”空き家”は853万戸。空き家率は総住宅数の14.1%と過去最高を更新し、平成20年からの5年では62万戸以上の空き家が増えているという。そんな中、現在急ピッチで法整備が進められているのが、空き家・空き物件を宿泊施設として利用する、いわゆる「民泊」だ。
"観光立国”を推進する政府は、平成32(2020)年までに訪日外国人旅行者数を現在の2倍にあたる4000万人に増やす目標を掲げている。沖縄県もまた、沖縄を訪れる国内外からの観光客数を同年までに1000万人にしようと取り組んでいるが、その一方で客室不足が深刻化。各地でホテルの新築や増築も進んでいるが、それだけではカバーしきれない部分が残る。そこを民泊で補えないか、という議論が、沖縄のみならず全国規模で始まっているのだ。
なお、沖縄で民泊といえば、県外からの修学旅行生が民家に泊まり、住人と生活を共にするホームステイのイメージが強いが、現在急速に広がりつつあるのは、使用していない空き家・空き部屋を宿泊場所として使うバケーションレンタルスタイルの民泊。これはアメリカのウェブサービス「Airbnb(エアビーアンドビー※注1)」の浸透によるところが大きい。
Airbnbの登録施設数は全世界で200万件を超え、日本国内では前年比2倍の4万5000件以上、沖縄だけでも1600件以上にのぼるという。登録施設と利用者がともに急増し、「シェアリングエコノミー(※注2)」と呼ばれる新たな経済活動が生まれる一方で、法整備が追いついていないために生じるさまざまなトラブルが社会問題となりつつある。そのため民泊行為そのものを条例や規則で禁止する自治体や建物管理組合も増えているのが現状だ。

そんな中で厚生労働省は平成27年12月、民泊を旅館業法で定める「簡易宿所」と位置づけ、その上で簡易宿所の要件を緩和する方針を打ち出した。認可のハードルを低くして無認可営業によるトラブルを減らし、同時に客室不足の解消を実現しようというわけだ。沖縄でこうした動きをいち早く察知し、独自の観点から民泊の新たなビジネスモデルを開発した事業者に話を聞いた。

※注1「Airbnb(エアビーアンドビー)」:2008年にアメリカ・サンフランシスコで誕生。アパートからお城まで、世界中のユニークな宿泊施設をパソコンやモバイル端末から掲載・発見・予約できるウェブサービス

※注2「シェアリングエコノミー」:個人が保有する遊休資産を“貸し借り”することで生まれる経済。インターネット上のソーシャルメディアが発展することで可能となった。前述のAirbnbの他、自動車配車サービスの「Uber(ウーバー)」などもその代表例だ



沖縄の不動産会社の視点から
新たな民泊ビジネスの開発に挑む
-有限会社日建開発-

空室を抱えるオーナーの立場に立って
有効な活用方法を考える

不動産仲介・販売を行う有限会社日建開発は平成28年2月、自社を中心とする4社で「沖縄県空室対策事業協同組合」を設立。同年7月からは民泊マッチングサービス「コンビニアム」を運用開始した。これは、コンビニエンスストアなどを民泊施設のフロントに見立てるという国内初の取り組みで、現在ビジネスモデル特許を出願中とのこと。24時間営業で防犯カメラなどのセキュリティインフラも整ったコンビニをチェックインポイントにすることで、貸す側も泊まる側も安心感が高まり、かつコンビニ側も宿泊者の消費行動が期待できる、という三方よしのシステムだ。
開発を手がけた同社取締役の柿本洋さんは、「空室を貸したい物件オーナーにとって、より良い民泊マッチングサービスを不動産業者として追求した結果、この仕組みにたどりつきました」と話す。「空室活用の可能性がある民泊に興味があっても、なかなか踏み出せない物件オーナーは少なくありません。宿泊予約の管理やお金のやりとり、鍵の受け渡しや宿泊者の出入りの管理はどうするのか、などの不安がネックになるのですが、逆に言えばこれらの不安を解消すれば空室活用の可能性が広がるわけです」
コンビニアムでは、予約管理と料金決済はネット上で完結させ、鍵の受け渡しはコンビニなどの店頭に設置されたチェックインポイントでチェックイン後、期限付きのスマートキー(電子的な鍵)を発行する。運用開始から間もなく半年を迎えるが、現時点で大きなトラブルもなく、宿泊者・オーナー双方から満足を得ているという。

観光領域の民泊マーケットに
不動産領域から攻めの姿勢で取り組む

コンビニアムの登録物件数は現在、沖縄本島・離島含めて9件。登録料は現在無料だが、登録対象が簡易宿所の認可を受けた物件のみということもあり、他の民泊サービスに比べて件数の伸びは緩やかだ。「簡易宿所と認められるためには消防法や建築基準法といった国の法律、自治体の条例などもクリアする必要がありますが、当組合では認可取得を目指す物件の要件チェックや手続に関する相談対応なども行い、オーナーをサポートしながら着実に登録物件数を増やしていこうと考えています」
柿本さんは沖縄の不動産事情として、「古い賃貸物件はなかなか埋まらない」「中心市街地の空き物件も、住みにくいと出て行った人を戻すのは厳しい」と感じていたという。「でも、これが民泊となると事情が違い、ちゃんとニーズがあるんです。これからは”スクラップ&ビルド”から”ストック活用”の時代になっていくと思います。古くなって住む人が見つからないからと建て替えてしまう前に、民泊施設としての活用をぜひ考えてみてほしいですね」。同組合の民泊への取り組みは、不動産領域では沖縄の空室問題の解消、そして観光領域では客室不足の解消という、ふたつの問題に同時に光をもたらす大きな可能性があるといえそうだ。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ48号」電子ブックにてご確認ください

「コンビニアム」のサービス概念図。日建開発はこれにより沖縄県から中小企業経営革新計画の承認も受けている

豊見城市にある自社運営の民泊施設。コンビニでのチェックインもスムーズに行え、これまでのところトラブルなどもなく、利用者の満足度も高いという

柿本洋さん。「コンビニアムでは現在、6名前後で泊まれる部屋の稼働率が特に好調です。例えば家族5人でロングステイが気軽にできる、コンドミニアムのような施設が沖縄では不足している。そんな現状も解消していけたらと思います」

有限会社日建開発
那覇市港町2-6-18 極東ビル4F ☎098-866-4910
https://conveniam.com


◇  ◇  ◇

空き物件を活かす新たな動きとして民泊とともに紹介したいのが、「リノベーション」というキーワードだ。
冒頭でも参照した平成25年の住宅・土地統計調査結果によると、新築着工戸数の98万戸に対して既存住宅の流通量は17万戸弱。全体に占める割合は14.7%にとどまり、新築と比べると既存住宅、つまり中古物件の流通は大きく停滞している。しかし中古物件単体で見ると流通量が徐々に改善しており、平成15年からの10年では2割近い伸びを示しているという。
ここでは、そんな中古物件の”中古にしかない魅力”に価値を見いだそうとする「リノベーション」の動きに注目する。リノベーションとは英語で「革新・刷新・修復」を意味し、不動産業界では既存の建物の性能を向上させたり、価値を高めたりする作業や工事を指す言葉として使われることが多い。築100年を超すような古い建物が今も残るヨーロッパなどではリノベーションは当然の習慣で、日本でも15年ほど前から東京を中心に、リノベーションを施した中古物件が増えてきた。物件本来の魅力を引き立てながら付加価値をつけ、これを独自の切り口で情報発信することで、長く空室のままだった物件に買い手・借り手が現れる――。ここ沖縄で、そうした取り組みに力を入れる事業者を取材した。


独自の目線と感覚で
物件の魅力を掘り起こす
-ディ・スペック株式会社-

見向きもされなかった物件が
入居者のセンスで変貌を遂げる

宜野湾市に事務所を置くディ・スペックは、住宅や店舗、事務所などの不動産売買や賃貸の仲介を行う不動産会社だが、そのウェブサイトの個性的なつくりに驚かされる人も少なくないだろう。「不動産物件の家賃や売買価格は立地や築年数、面積などを基準に金額が決まるため、物件情報を検索する時にもこうした条件がよく使われます。でも、こういう数値には現れない、物差しでは測れないような魅力を持っている物件も実はたくさんあるんです」。そう語るのは、同社の代表で建築・設計・不動産取引と不動産畑ひと筋で歩んできた古謝淳也さんだ。
2007年に立ち上げた自社ウェブサイト「沖縄不動産文庫」は、エリア・家賃・間取りといった従来の検索条件の代わりに「デザイン」「改装OK」「ヴィンテージ」「海・川近く/眺め良し」「ペットといっしょ」「戸建・庭付・外人住宅」などのカテゴリーで物件を分類。各物件の紹介ページも、数値化できる物件のスペックより、そこで暮らすことで手に入るライフスタイルや価値観を伝えることに重きを置いている。
サイトオープン当初は、目当ての物件を取り扱わせてほしいと交渉に行くと「きれいな新築じゃなく、どうしてこれなの?」と不思議がられることもあったという。それでも地道に、築年数の古い物件や廃屋同然のような物件の隠れた魅力を掘り起こし、数多く成約させてきた古謝さん。今では同業者や物件オーナーから「面白い部屋があるよ」と声がかかるようになったそうだ。
また、入居者が自由に改装できるようオーナーの許可を得た物件を、「改装OK」のカテゴリーで打ち出したのも同社の特筆すべきところ。「改装に際しての決め事の範囲内なら、入居者のセンスで好きにできるようにオーナーと交渉します。工事費の負担率はケースバイケースですが、全額入居者負担でも喜んで改装して、入居後も本当に楽しんで暮らしている方が多いです。負担率うんぬんではなく、自分が心地よく使いやすいように物件に手を入れたいと望んでいる人は、実は相当いると感じています」

自社によるリノベーションで
さらなる付加価値を与えて売り出す

これまでは協力会社の力を借り、オーナーか入居者が施主となるリノベーションを行ってきた古謝さんだが、平成28年からは物件のリノベーションを自社で行う取り組みにも挑戦している。自分たちが施主となって物件をリノベーションし、付加価値をつけて提供することに以前から挑戦してみたかったのだという。社内の体制がようやく整い、第一弾の物件がつい先ごろ完成したばかりだ。「国際通り近くのビル3階で立地はよいのですが、『15年近く空いたままで困っている』と相談を受けた時は、15年前に退去した美容室の備品や什器が床に散らばっているような状態でした。でも僕らから見るとチャームポイントがいくつもあり、そこを活かして少し手を加えるようなリノベーションを施しました。完成してすぐに『住宅兼オフィスとして使いたい』という借り手が現れ、安心しましたね」
物件探しはインターネットでの検索も使うが、各自で町に出て「空室あり」「貸家」「売出中」などの貼り紙を見つけ、飛び込んだりもするという。自社での取り扱いを決める上で何か基準を設けているのかと尋ねると「特に基準はない」と古謝さん。「理屈ではなく、僕らなりに何か個性を感じる物件を集めています。しいて言うなら、基準は僕らの”目線”とか”感覚”かもしれませんね。あと、例えばデザイン重視で物件を選ぶ人は、気に入った物件が希望エリア以外だと、あっさりと住むエリアを変えてしまうことが多かったりします。その物件のチャームポイントを見つけて光らせれば、想像しなかったようなところから借り手・買い手が現れたりする。面白いです」
隠れた魅力を持つ物件を発掘し、使う側のライフスタイルに沿った付加価値を提案することで、沖縄の空室に命を吹き込む同社の取り組みに、今後も注目していきたい。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ48号」電子ブックにてご確認ください

ディ・スペックの自社サイト「沖縄不動産文庫」。賃貸用、売買用、投資向けなど個性的な物
件が揃う。それぞれの物件の説明文も、ユニークでありながら入居後をイメージしやすく、見ているだけでも楽しい

自社初のリノベーション物件。15年空いていたとは思えないほどに変貌した。現在は那覇・浮島通りで2件目となるリノベーションに着手している

古謝淳也さん。スタッフ5名のうち不動産業経験者は古謝さんのみというが、だからこそ既存とは異なる角度から物件を見つめ、利用者に近い感覚で魅力を伝えられるのだろう

ディ・スペック株式会社
宜野湾市新城2-39-8 MIX life-style 2F
☎098-893-5015 http://www.dspec.jp

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【COLUMN】
コザに人を惹きつけ、コザから世界に発信
“古いものを活かす”スタートアップ拠点

空き店舗の増加という悩みを抱える沖縄市で、中心市街地活性化の芽吹きを感じる取り組みが始まっている。平成28年8月、コザ一番街商店街の空き店舗を活用して誕生した「スタートアップカフェコザ」だ。起業・創業のワンストップ相談窓口とコワーキングスペース、プログラミング講座などを行う教室を備え、さらに斜向かいには同じく空き店舗を利用したものづくりの工房を併設。3Dプリンタやレーザーカッターなどの先端工作機械を備え、一般向けに開放している。
なぜコザ一番街に拠点を構えたか、代表の中村まことさんに伺った。「欧州のスタートアップ拠点の中で今一番伸びているのが東ベルリンだといわれています。リノベーションした古い物件を拠点に、テクノロジーとクリエイティブを融合させたベンチャーが次々と生まれ、投資もどんどん入っています。ここコザも多様な文化が色濃く残っていますし、建物が古いので中心地でも家賃が安い。そうした東ベルリンとの共通点に可能性を感じました」
コンシェルジュを務める島袋豊さんは、「この拠点ができたことをきっかけに、人の流れが確実に生まれているのを感じています」と話す。「アーケード内の空き物件を改装し、スタートアップ絡みでコザに来る人たち向けの宿泊施設をつくる計画も動いていますし、スタートアップカフェコザの利用者が近隣の空き部屋をオフィスにしたという話も聞いています」。スタートアップ業界特有の“人脈”がもたらす副産物といえそうなこの流れは、なかなか埋まらない空室を抱えてきた物件オーナーにとっても良いニュースといえそうだ。

2年前、島袋さんと中村さんとで起業に関する勉強会を開いたことをきっかけに動き出したスタートアップ拠点づくりの構想は、町をどうやって元気にしていくか思案していた行政の意図ともマッチした。沖縄市経済文化部企業誘致課の柴田倫子さんは、「『古いものに手を入れて大事に使っていくことがライフスタイルとしてかっこいい』という彼らの言葉が印象的で
した」と振り返る。「彼らの事業計画は、相談窓口を備えたスタートアップカフェの運営やニアショア拠点を見すえた人材育成の機能、ものづくり拠点の運営まで備えていて、大きく期待の持てるものでした」
島袋さんは今後の展望として、「日本中、世界中どこでもインターネットを介して仕事をこなす人々がコザに集まり、世界の課題を解決するようなビジネスをコザから発信していく。そんな場づくりをしていきたいです」と話す。大きな資本がなくともアイディアと人脈、それに適した環境があれば事業を始められること、そして“今あるものを活用する”ことが新たな価値を生み出す可能性を、スタートアップカフェコザは教えてくれている。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ48号」電子ブックにてご確認ください

アーケードを歩く人々が大きなガラス窓越しに「ここは何?」と覗き込んでいく。人を惹きつける引力のような何かを発しているような印象がある

島袋豊さん

柴田倫子さん


スタートアップカフェコザ
沖縄市中央1-7-8 ☎080-3963-3355
http://startup-cafe.okinawa
http://www.facebook.com/okinawa.startupcafe/