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沖縄の物流が変わる 〜南の島のロジスティクス革命〜

2016.09.27 Tue.


沖縄の物流が変わる
〜南の島のロジスティクス革命〜



海を隔てた島であるがゆえに苦境を強いられてきた沖縄の物流が、変わりつつある。沖縄県は2015年9月に策定したアジア経済戦略構想の重点戦略のひとつとして「アジアをつなぐ、国際競争力ある物流拠点の形成」を掲げ、2016年度からアジア経済戦略課を新設。構想実現に向けてスタートを切り、物流高度化推進事業(11ページの関連記事参照)も動き出した。大交易時代は再び訪れるのかーー。沖縄の物流の”今”を追った。

◇ ◇ ◇

島しょ県である沖縄は、物を運ぶには海を渡らなければならないというハンディキャップを常に抱えている。だからこそ、沖縄の物流が果たす役割は非常に大きい。離島特有のジレンマに直面しながらも生活物資の安定輸送による県民のライフラインを維持し、一方ではアジアと本土の中心という地理的条件に活路を見出し、沖縄のモノを県外あるいは海外へ届けることで産業の振興を実現するなど、未来を切り拓こうとする事業者が近年増えている。


21世紀における
「万国津梁」の再現
-琉球海運株式会社-

内航船を外国貿易船へ
前代未聞の難題に挑戦

沖縄民政府にあった琉球海運部が1950年に民営化する形で始まった琉球海運株式会社。2014年6月の九州〜沖縄〜台湾航路の開設は、同社にとって42年ぶりの外国航路の再開として話題となった。そこには同社の、21世紀における「万国津梁」の再現という強い信念が込められている。
「今後の高齢化や人口減少の加速が予測される中で『沖縄のモノを出荷することだけにこだわらず、日本やアジアからモノを集めて沖縄で加工し出荷する』という形で、アジアの活力を取り込むことが我々の進むべき道という発想です」。そう話すのは、営業部外航課長で台湾航路開設を担った高崎裕さん。もともと九州〜那覇を結んでいた路線が台湾・高雄港まで延伸することで商圏は一気に広がり、九州経済の国際化にも寄与する。新たな積荷の開拓に加え、これまでわずかだった帰り荷も確保できた。
しかし国内の各港を結ぶ内航船と海外向けの外航船は厳然と区別されており、本来併用するにはハードルが高い。「台湾航路に就航しているRORO船(ロールオン・ロールオフ型貨物船)の『みやらびⅡ』は関税法上『外国貿易船で内航貨物を運ぶ』という形になるため、これまで必要のなかった関税法に基づく手続きや本船のISMコード(国際安全管理規則)の策定などにゼロから取り組んでいくことになり、課題が山積みでした」。本来なら2〜3年要する内容に社内が一丸となって取り組み、1年でクリア。そのわずか半年後には株式会社商船三井との提携を実現した。大手海運会社のネットワークとつながることで台湾の高雄港からの11航路が開け、さらにその先のトランシップ(積み替え)を含めると航路拡大は約90都市にまで広がった。

いくら物流が整っていても
商流がなければ機能しない

RORO船の導入も画期的だった。「トレーラーがそのまま出入りできるRORO船は、コンテナ船のように大型クレーンを使った積み卸しが不要なため時間が短縮できます。コンテナ船に比べて衝撃や振動が少ないので精密機器の輸送にも適していますし、横扉が開くトレーラーならアルミの型枠など長尺の荷物も積めます」
ただし本来、日本のナンバープレートをつけた車がそのまま台湾国内を走るのは違法となる。「台湾で実現したかったことは3つありました。ひとつは日本のナンバーのままトレーラーを走らせるシームレス輸送の実現、積み荷が半量でも輸送可能なコンテナサイズの認可範囲の拡大、そして他社との提携による航路拡大でした」。高崎さんらの台湾当局や他社への熱心な働きかけが実を結び、これらはすべて叶ったという。
ほぼゼロの状態から始めて3年。言葉や商習慣の壁を乗り越え、まさに自力で築き上げた物流ルートは地球の裏側まで及ぶ。「道はできた」と高崎さん。「しかし我々はあくまで商流を支える裏方。商流がなければ物流は機能しません。県内事業者の皆さんが商流づくりを頑張り成果が上がっていけば、また一方でアジアにおいて当社の名が浸透していけば、増便、そしてさらなる利便性の向上も遠い将来ではないと考えています」

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ47号」電子ブックにてご確認ください
琉球海運国内国外運航図
九州~沖縄~台湾航路は月曜に那覇を発ち、一日ごとに鹿児島、博多、再び鹿児島、那覇、宮古・石垣と南下し日曜に高雄着。ここで台湾からの荷を積み、那覇に戻る一週間の航路だ

台湾の港内を進むRORO船「みやらびⅡ」。21ノットの速力を有し格段のスピード輸送を実現

「みやらびⅡ」はコンテナ、シャーシ、建設機械などの車両類をはじめ、電源設備の完備により冷凍・冷蔵品の大量輸送も可能。多品目の輸送ができるため、幅広い荷主ニーズに応える

高崎裕さん。外航課発足時から全てが未知への挑戦となる取り組みを牽引してきた


琉球海運株式会社
那覇市西1-24-11 ☎098-868-8161
http://www.rkkline.co.jp


「沖縄貨物ハブ」により
スピーディかつ安定輸送を実現
-株式会社ANA Cargo-

アジアにいながらにして
鮮度を保ったままアジア各国に輸送

第1次安倍内閣が打ち出したアジアゲートウェイ構想により、沖縄県と全日本空輸株式会社(以下、ANA)が那覇空港をアジア向けの国際物流拠点とすることで合意したのが2007年。2年後の2009年10月には、ANAによる沖縄をハブに据えた航空貨物ネットワーク、いわゆる「沖縄貨物ハブ」の供用が開始。国際物流の強化が進む中、ANAの貨物部門とANAグループの物流会社との統合を経て2014年にサービスを開始したのが株式会社ANA Cargo(エーエヌエーカーゴ)だ。
「2015年の実績で、当社の取扱貨物量は116.5万トン。そのうち経由貨物を含む那覇空港の取扱量は17.4万トンです」と話すのは、同社沖縄統括室長の高濱剛司さん。そんな中、アジアと日本を結ぶ貨物ハブとしての沖縄の存在意義が徐々に高まっているという。
沖縄貨物ハブでは国内およびアジア各地からの航空貨物を那覇に集め、同社の施設で効率的に積み替えて深夜出発・早朝到着の貨物便で各仕向地へ送り出している。特筆すべきは同社施設内に那覇地区税関が検査場を構えている点。これにより他空港に比べスムーズな税関手続きが可能となる。
「日本からアジアに出て行くモノといえばかつては電化製品が多かった時代もありましたが、今は農水産品、特に魚介類など生鮮食材が増えています。主にアジア諸国の富裕層の需要増に伴うものですが、これも沖縄貨物ハブを経由することでリードタイムが飛躍的に短縮され、保冷コンテナの活用により鮮度が保たれるようになったのが大きいですね」と高濱さん。
例えば香港から北海道の鮮魚を注文したとする。水産業者が札幌発の最終便で発送した鮮魚は、羽田経由で那覇に到着し、同じ日の深夜に税関手続きを終えて出発。翌朝には香港に届く。一方で同じ鮮魚が羽田から築地市場に向かった場合、発送日深夜のセリを経て小売店などの店頭に並ぶのは翌朝以降。つまり沖縄貨物ハブを利用すれば、アジアにいながら築地直送と同じかそれ以上の鮮度で日本の味が楽しめるというわけだ。

アジア急成長で見えてきた
20億人の巨大マーケット

価値ある商材がさらに付加価値を得れば利益の向上につながる。「アジア各国の生活水準が急上昇し、昔はなかった商流が生まれています。当社もヤマト運輸さんとの連携で日本各地の農水産品をアジアへ輸出する物流プラットフォームを構築するなど、輸出拡大に向けて取り組んでいますが、沖縄が輸出拠点としてもっとフォーカスされるよう働きかけを続けているところです」
物流のネットワークが整いつつある今、高濱さんは「”沖縄を通過しなくてはならない”貨物をこれからどう増やすかが課題」だという。「沖縄貨物ハブの供用が8年目、沖縄大交易会もプレ開催から数えて4年目と、少しずつ浸透はしてきていると思いますが、沖縄が提供できる付加価値の認知などはまだまだこれから。沖縄貨物ハブの多面的な活用促進をさらに強化し、県内企業の皆さんにも『ここ沖縄がアジアの中心だ』という意識でどんどん利用していただきたいですね」。アジア20億人の巨大マーケットは、もう手の届く場所まで来ている。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ47号」電子ブックにてご確認ください
ANA Cargo貨物上屋
「上屋(うわや)」とは外国貨物を蔵置する施設。目の前に駐機スポットがあり、内部には税関検査エリアやヤマト運輸の仕分けエリアも備える

ANA Cargoの沖縄貨物ハブネットワーク
国内主要空港やアジアの大都市の多くが飛行4時間圏内。相互接続ダイヤを用意しているため、アジア域内間の輸送もスムーズ

24時間稼働のANA Cargo専用貨物上屋にて、貨物の積み替え、検量やラベリング、通関作業まで一括して行うことで深夜に那覇発、早朝にアジア各都市着を可能にしている

20種類以上の一般コンテナや貨物専用コンテナ、保冷コンテナ(写真)など様々な貨物に対応

高濱剛司さん。「2017年には航空機整備(MRO)事業を那覇で展開予定です」と語る


株式会社ANA Cargo 沖縄統括室
那覇市鏡水400 那覇空港貨物ターミナルB棟2階
☎098-859-7250 http://www.anacargo.jp



物流改革を通じて
沖縄の成長に貢献
-沖縄ヤマト運輸株式会社-

”ジャパンクオリティ”を担保できる
アジア5都市でサービスを展開

2015年11月、沖縄グローバルロジスティクスセンター「サザンゲート」が稼働を開始した。多機能型物流倉庫であるサザンゲートは、ヤマトグループの新たな物流拠点として物流サービス提供のほか、沖縄の優位性を活かしながら「充填」、「キッティング」、「クロスドック・マージ」、「保税」などの新たな付加価値機能を提供している。その実質的な管理運営を担うのが沖縄ヤマト運輸株式会社だ。
物流サービスとしては海外向けの「国際宅急便」が代表的だ。同社では2012年からANAの沖縄貨物ハブを活用し、上海・台湾・香港・シンガポール・マレーシアの5都市向けの荷物を扱う。そのうち上海を除く4都市には国際クール宅急便により国際間の小口保冷輸送を実現。「日本国内の宅急便で提供しているきめ細かな配送品質をお届けするため、日本人スタッフが現地に駐在し社員教育を行っています」と話すのは沖縄ヤマト運輸のグローバルエキスプレス事業部課長、具志堅和也さん。国際宅急便、国際クール宅急便についてはANA Cargoの施設内に構えた冷凍冷蔵施設も活用し、24時間の通関体制の下で生鮮品などの輸送をスピーディに行っている。

グループが描く構想を形にした
「サザンゲート」の先進機能

サザンゲートには数社が入居しており、そのいずれも沖縄の国際物流ハブとしての機能に価値を見出した企業だ。たとえば東芝自動機器システムサービス株式会社は、精密機器の海外販売先での故障・メンテナンス発生時に必要となる緊急パーツをすぐに供給できるようサザンゲートで保管。24時間スピード通関を活用したアジア向けの最短翌日配達、また欧米向けの供給も実現している。化粧品・健康食品のOEM企業、ホシケミカルズ株式会社はサザンゲート内に充填工場を設置。メイドインジャパンの化粧品の原材料の調達から充填、包装、輸入も含めた一貫物流を実現した。サザンゲートは同社にとって、アジア向けの化粧品通販の物流拠点としても必要不可欠なものになっている。またある通販会社では、海外向けに加えて沖縄県内配送用の在庫もサザンゲートに置き、沖縄特有の送料負担の大きさを軽減するスキームを構築している。
現在は輸出貨物がほとんどだが、輸入貨物のシェアアップにも意欲的だ。「輸入への取り組みのひとつとして台湾との連携を想定しています。空路はもちろんですが海路のネットワークも活用し、お客様のニーズに応えていければ」と具志堅さん。そして、物流業者の視点から改めて「いい商品をつくると同時に買い手も見つける」という商流構築の重要性を語ってくれた。「我々としては、小さなロットであろうと買い手が欲しがるようないい商品をつくっている事業者さんの、モノを売る手助けになりたいと思っています」。
ヤマトグループでは2013年より「物流改革を通じて日本の成長戦略に貢献する」というバリュー・ネットワーキング構想を掲げているという。サザンゲートはまさに、その体現と言えるのではないだろうか。

※下記の画像は「沖縄ベンチャースタジオ47号」電子ブックにてご確認ください
ヤマトグループのアジア物流ネットワーク
取扱件数が増加中の国際宅急便。その構成比は概算で香港40%、台湾25%、シンガポール23%、上海7%、マレーシア5%とのこと

サザンゲート外観。沖縄県が指定する国際物流拠点産業集積地域内に位置するため、輸出入に関する各種税金の優遇措置も受けられる。左写真は化粧品の充填作業を行うホシケミカルズ社の製造ラインの様子

ANAの空路を活用し、那覇出荷の翌日午前中にはアジア主要都市へ配達可能

具志堅和也さん。国際貿易に興味を持つ人材の採用・育成にも意欲的だ

沖縄ヤマト運輸株式会社
グローバルエキスプレス事業部
那覇市鏡水崎原地崎4号棟3階 ☎098-852-0170
http://www.okinawayamato.co.jp


◇ ◇ ◇

3社の取り組みや現状、問題意識を取材して共通していたのは「物流ネットワークは万策を講じて整えつつある。あとはそれぞれの事業者が商流をつくり、物流を活用してビジネスを活性化させてほしい」という期待だ。
これまで「輸送ルートがない」「コストが高い」と言われ続けてきた物流の担い手たちは、その言葉をバネに困難を乗り越え、沖縄と本土、そして世界を結ぶ道筋を切り拓いてきた。今度は、商流を担う事業者の出番だ。何を誰に売っていくのか、県内事業者の新たな挑戦に期待したい。

 

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